※本稿は、みかた著、大谷伸久監修『そして夫は、完全な女性になった』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
夫の家族へのカミングアウト
この頃、体が弱って元気がなくなってきた夫の母を励まそうと、誕生日に家族みんなが集まる食事会が催されました。長時間の外出は夫の母の負担になるので、ランチでお祝いをしたのですが、これを機に夫は夫の家族に初めてカミングアウトすることを決めます。
食事会を終え両親と別れたあとに、夫は弟さんをお茶に誘いました。いきなり両親に話すと気が動転してしまうかもしれないので、まずは弟さんに話してワンクッション置きたかったようです。私もそのまま同席しました。
弟さんと夫はずっと仲の良い兄弟でしたが、やはり「これまで夫が女性である兆候は何も感じなかった」と驚いていました。
長年一緒に育ってきて、お互いの部屋を行き来していた兄弟でも、思い当たるフシがひとつもないとは。私には不思議でなりません。
弟さんは「びっくりしたけどこれは兄の人生だから、自分がどうこう言うつもりはないし、拒絶もしない。両親にカミングアウトする時には一緒に行ってあげる」と好意的な反応でした。
夫は力強い協力者を得ることができて感激しているようです。初めてのカミングアウトで応援してもらえたのですから、それは嬉しかったでしょう。
対して私は弟さんから、「兄に愛情があるのなら、見かけが変わろうと認めてあげればいいのに。自分だったらそうするけど」と言われてしまいました。
この「見かけが変わるだけ」「自分だったら認めてあげる」という言葉を、この数カ月で何度聞いたことでしょうか。
私が自分の知り合いに相談した時にも必ずと言っていいほど聞いたこの言葉に、私はだんだんと気持ちが追い詰められるようになっていきました。
仲の良い弟も、父もまったく気づいていなかった
それから約2カ月後の11月に、夫と弟さんの二人でまずは父にカミングアウトをしました。
「今まで全く気づかなかった。親として申し訳ない」と反対されることもなく、受け入れてくれたそうです。
「これは親として、奥さんを含めて二人の心のケアを考えないといけない」とも言ってくれたそうで、カミングアウト時に「妻の心情」まで心配してくれた人がいたことに、私はありがたさを感じました。反面、やはり父も気づいていなかったのだと、不思議さは募るばかりでした。
その後は夫の友人や会社の同僚、上司へと次々にカミングアウトをしていきました。ほとんどの方が夫を尊重して応援してくれます。
ちょうど社会でもLGBTQ運動などが話題になり始めた頃で、まるで世間の「これからはマイノリティの人たちを尊重しよう」という流れに乗るかのように、夫のカミングアウトは順調に進んでいきました。