日本の成長力が弱い本当の理由

【白河】たしかに加速が必要です。ただ日本企業の中には、なぜジェンダー・ギャップ指数を上げるべきなのか、理解していない経営者もいるようです。

柄澤康喜さん

【柄澤】今、日本の成長力が弱いのはなぜか。一国の経済力の実力を表すといわれる「潜在成長率」の3つの要素、資本・労働力・生産性のうち、生産性が上がらないことが要因だとみています。生産性はイノベーションを起こすことで上がりますが、日本は他の国がオープンイノベーションに取り組む中で遅れてしまいました。イノベーションは既存の知と新たな知が融合して初めて起こるものですから、ダイバーシティの実現度が大きな鍵になります。中でも女性の活躍は必須条件であり、ジェンダー・ギャップ指数を上げる意義もそこにあります。

【白河】企業の中の多様性、つまりダイバーシティを進めることこそが日本の成長につながると。

【柄澤】その通りです。今の日本に起こっているさまざまな問題は、私たち経営者や経団連も含めて、皆がダイバーシティに取り組んでこなかったせいでもあると思います。この遅れを急いで取り戻さないと日本はダメになる。それほど危機感を抱いています。

コミュニケーションと情報の透明性を高めるべき

【白河】「ダイバーシティに取り組んでこなかった」と率直に言ってくださいましたね。具体的には、どうすればダイバーシティが進むと思われますか?

【柄澤】女性が活躍しやすい環境を整える観点から言えば、例えば男性社会では“暗黙知”がよく使われますよね。飲み会に出た人の間だけで暗黙の了解ができあがったりして、「言わなくても通じる」関係がよしとされてきました。

しかし、例えば2019年W杯で大活躍したラグビーの日本代表チームなどは多国籍軍ですよね。バックグラウンドが違えば暗黙知では理解し合えないでしょうから、自然と客観的な形式知にしてコミュニケーションを心がけるようになったはず。そうするとコミュニケーションの精度が上がり、新しいことが生まれやすくなります。その結果、日本代表チームとして史上最高の成績をおさめたわけですから、企業も見習うべきでしょう。多様な人材を生かすには、暗黙知に頼っていてはいけないのです。

【白河】そうした非公式な派閥や人脈、伝達は、オールド・ボーイズ・ネットワークと呼ばれていますね。女性が入り込みにくいので、キャリアアップを目指す上で障壁にもなっています。

【柄澤】もう一つ、ダイバーシティを進めるには透明性も重要です。経営にかかわる情報でも、できる限り社員に開示することのプラスがマイナスにまさるのですが、秘密にしたがる人もいます。情報を自分のところで止めることによって優越感をもつのかもしれません。

女性役員比率などの自主行動計画の数値を公表しない企業も少なくありませんが、こうしたものは社内外にオープンにすべきです。

経営や人事に関する情報を開示すれば現場から違う解が出てくることもあるはずで、それこそがイノベーションにつながるのにと思います。