家族構成などの話もできる自己開示の時間をつくった

これをきっかけに、事業所では不測の事態に備えて、自分以外のメンバーが互いにどういう働き方をしているのかをわかり合う会が設けられた。また、これまでチャンスのなかった家族構成などの話もできる自己開示の時間をつくったという。

「私も意識が随分変わりました。以前は目の前の仕事に集中しすぎていたのかも。周りを見るようになれたというのが一番の変化ですね」

利用可能な制度の活用と、組織のチーム力で、時間的制約や突発事態に対応していく。それには個々が自律・自走できることが大事なのだと小丸さんは話す。

一方の豊福さんは実際に子育ての真っ最中。18年2人目の育休から復帰した。復帰した当初は育児短時間勤務制度を使い5時間勤務だったが、19年の5月から通常勤務に。でも心配なことが1つあった。

「弊社の場合、3~5年に1回が異動の目安といわれているので、もしかしたら近々転居を伴う異動があるのではと思っていました」

豊福さんは夫も全国転勤型の会社員で、いつ異動があるかわからない。実家も遠く、子どもは当時4歳と1歳。セーフティーネットとして取っておきたい気持ちもあったが、今転勤は大変だということで思い切って転勤回避措置制度を申請した。

「以前は1回だった取得回数が2回に変更されたのも大きかったですね。実際、そのすぐ後に転居を伴わない異動があったので、出しておいてよかったと思いました」

もしこの制度がなければ、子どもを連れて転勤せざるを得なかったと話す豊福さん。先が見えない不安を抱えることなく日々、業務や家庭に向き合えるのは、転勤回避措置制度が基盤となり安心感が得られているからなのだろう。

転勤回避措置制度
出産・育児、介護、本人・家族の傷病などの理由で転居を伴う異動ができない場合に、一定期間転勤を回避できる。勤続3年以上の全国転勤型の社員が対象で、1年単位、5年間を上限として2回まで分割取得が可能。育児事由は子どもが小学校3年生の学年末まで。
希望地復帰支援制度
産休・育休を6カ月以上取得した勤続3年以上の全国転勤型の社員が、復帰する勤務地を選べる制度。配偶者との同居や、親族の育児支援を受けやすい地域、保育園を確保しやすい場所などを希望できる。共働き世帯が増える中で「元の職場に戻る」以外の選択肢を広げた。
なりキリン ママ・パパ研修
「育児」「親の介護」「パートナーの病気」という時間制約のある働き方を1カ月間擬似体験する、同社独自の研修プログラム。2016年度に大賞を受賞した、女性営業職の生産性向上に異業種で取り組む「新世代エイジョカレッジ」での実証実験が基になっている。

撮影=田子芙蓉

横山 久美子