とはいえこれだけ多様な働き方を、受け入れる側の職場はどう受け止めているのか。社員の意識改革に大いに役立っているというのが、「なりキリン ママ・パパ研修」だ。
「『育児』と仕事の両立を想定し、時間制約のある働き方を徹底してもらう研修です。営業職の女性5人が発案した実証実験をもとに、全社展開されるようになりました。現在は『親の介護』『パートナーの病気』という設定も追加されています」(豊福さん)
働き方の基本ルールは1日所定労働時間の7.5時間勤務で残業なし。ただし、配偶者のサポート日が週に1回あり、その日は残業や早朝出勤も可能。このほかベビーシッターに預ける想定で残業できる仕組みもあるが、代金を申告しなければならないという念の入れよう。
「実はこの研修の肝は“突発的な休み”。子どもの発熱など実際にありそうな状況の電話がかかってくると、すぐに帰宅したり、状況によっては翌日休まなくてはいけません。本人が制約のある働き方を体感するだけでなく、周りも突発的な休みに対応できるいい意識改革になっているんです」(豊福さん)
多様性のあるキャリア形成に導く施策はキリンの持ち味といえそうだ。
実体験や模擬体験で多様性を認め合う組織に
キリンビール広域販売推進統括本部の小丸祐子さんは「なりキリン ママ・パパ研修」で「親の介護」を体験した1人。事業所で営業窓口をしている小丸さんは、ほかのメンバーの研修時にフォローができればと真っ先に手を挙げた。
その日はいつものように朝9時に出社。エンジンのかかり始めた10時頃、突然、携帯電話が鳴った。
「『親御さんが大きく体調をくずされました。今すぐお越しください』というメッセージが流れてきました。“突発的な休み”です。研修といえども仕事を家に持って帰ることはできないので、急いで仕事を整理して、会社を出たのは1時間後の11時頃でした」
この1時間が慌ただしかった。1日の予定を確認し、当日にやらなければならないことは同僚にていねいに説明してお願いし、そうでないものは先延ばしにすることにした。
「周囲も研修中だと知っているので、『あ、ついに来たんだ』という反応と、『もうこの時間で帰るの?』という反応でしたね(笑)」
小丸さんは帰宅しながら普段から仕事を見える化して、自分の中で整理しておくこと、自分も周りのみんなも備え合うことが大事なのだと感じたという。