IT系の中でもうひとつ景気のいい分野がある。「クラウド」だ。クラウドは、さまざまなデータを自分のパソコンや携帯電話ではなく、インターネット上に保存して利用する技術。IBMやマイクロソフトなどの米系企業はもちろん、富士通やNEC、日立製作所などの日本企業もこの分野に積極投資している。
企業の年収や働き方などのクチコミ情報を集めるウェブサイト「キャリコネ」を運営するグローバルウェイの社長・各務正人氏が特に注目するのが、米国企業のセールスフォースドットコムだ。同社は、日本郵政や損保ジャパンなどに、クラウドシステムを提供している。
「現在、SAPやオラクル、IBMなど外資系の大手IT企業で活躍した人材を積極採用しています。当社に寄せられた情報によると、30代で年収1000万円を超える人も多い。ここ数年で年収が相当あがっており、年収数千万円の社員も増えてきているといわれています」
IT業界で、もっとも給料が高いといわれる企業がある。Googleだ。米国のGoogleの2010年第3四半期(7~9月期)決算は、売上高、純利益ともに予想を大きく上回り、過去最高となった。売上高は前年同期比で23%増の72億9000万ドル、純利益は32%増の21億7000万ドルだ。日本法人では単体の売上高、利益等は公表していないが、人気はうなぎ上りだ。転職サイトDODAの10年転職人気企業ランキングでは、トヨタ自動車やソニーを抑えて、前年の第3位から第1位になった。
「Googleの日本法人の給料は、三菱商事や三井物産など総合商社大手に近い。30歳で年収は1000万円を超える人も多く、これにインセンティブが加わります。これを加えると、30代前半で1200万~1500万円という社員もいます」(IT業界関係者)
インターネットが仕事や生活に必要不可欠なツールとなり、さまざまなネットサービスが生まれている。ライブドア事件以降、ITベンチャー受難の時代が長く続いたが、再び脚光を浴びるようになった。それが好業績を叩き出すIT系企業の増加とエンジニアなどを高給で報いて人材を囲い込みする動きにつながっているのだ。
では、他の業界はどうだろうか。
金融業界から注目の1社をあげるとすれば野村証券だろう。2011年4月に入社する新卒社員の一部を対象に、初任給を54万2000円に設定することを決めている。グローバルな金融市場で戦える優秀な人材を囲い込み、競争力強化につなげるのが狙いだ。
彼らは「グローバル型社員」と呼ばれ、投資銀行、市場取引、IT関連などの業務を担当する。40人程度のグローバル型社員が配属されるという。担当する分野での高い専門性と高度な語学力は必須の条件で、英語能力試験「TOEIC」で860点以上が条件だという。
「過去、野村は日本に進出した外資系金融機関などに優秀な人材を引き抜かれるなど、人材供給の金融機関でもあったんです。その野村は、世界の投資銀行のトップ5を目指すといわれている。グローバル型社員の採用は、そのための人材の囲い込みであり、野村は本気だという意思表示でしょう。日本の金融機関の中では、もっともグローバル化が進んでいる会社だといえます」(第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト・永濱利廣氏)
ちなみにゴールドマン・サックス日本法人の初任給は、基本給600万円+ボーナスで約1000万円程度になるという。野村のグローバル型社員の年収は650万円でこれに実績に応じてボーナスが支給される。ボーナスの金額しだいだが、ゴールドマンとはさほど大きな差はないといえるだろう。
※すべて雑誌掲載当時