意外と大企業のケースが多い
それでは具体的には、どのようなマタハラが行われているのでしょうか。
さすがに「妊娠した」というだけで、いきなり解雇を言い渡されることは、ほとんどないようです。実際に相談に来られるケースで一番多いのは、「育休の申請をしたら、辞めてほしいと言われた」というもの。実は産前産後の休業は、労働者の正当な権利として労働基準法で認められています。しかし「お子さんが生まれたら仕事と子育てを両立するのは大変でしょう」などと言って、やんわりと退職に持っていく会社が非常に多い。
その次に多いのが、派遣社員であれば「契約更新しない」というケース。役職がついていたのにそれをはずされるなどの「降格」も目立ちます。その次に多いのは、給料を下げる「減給」、「人事評価でマイナスの査定を行う」など。「正社員だったのに非正規社員にされる」というケースもあります。
このようなマタハラは、子育てを支援する制度が整った大企業には少ないイメージがあるかもしれません。しかし私の経験では、どちらかというと大企業のほうに多いようです。人材に余裕のある大企業ほど「女性社員は妊娠したら辞めるもの」という古い風土が残っているということがありますし、またこの2~3年で法律がどんどん変わっているため、まだ対応しきれていないというケースもあります。
わかりやすいマタハラはほとんどない
気をつけてほしいのは、さきほども言ったように、「妊娠した以上、いますぐ辞めてもらいます」というような、わかりやすいマタハラは現実にはほとんどないということです。むしろ、「これから出産や子育てで大変でしょう。もっと楽な部署に移ったら?」とか、「正社員のままじゃ、子育てできないんじゃない?」というように、やんわりと退職や異動、降格などを勧められるパターンが圧倒的に多いのです。
本人も出産後について多少なりとも不安に思っているところへ、そのように言われるとつい承諾してしまう。そしてあとで冷静になってみると「あれ? なんかおかしい」と気づく。それで会社と揉め始めると、職場に居づらくなったり、出産が近づいて休みに入らざるを得なくなる。揉めている間は会社に行っていないことも多いので、それを理由に解雇されることも少なくありません。
あるいは育休明けに会社に戻ってみたら、望まない部署に異動させられていたとか、別の支社に転勤になっていたということもあります。本来であれば会社には、産休や育休をとったことで賃金、労働条件、通勤事情、本人の将来に及ぼす影響などについて不利益をこうむることがないように考慮する義務があります。
私たち弁護士が介入する場合は、この異動や転勤が、不利益か不利益でないかが争点になってきますが、ここまでくるともはや会社と対決姿勢になるのは必至。会社との関係がギスギスしたものになることも避けられません。できればそうなる前に、どんな予防策を講じられるかを考えてみましょう。