——これからも、変化に対応していけば、コンビニもまだまだ成長できるのでしょうか。

【鈴木】市場飽和を唱える人たちはマーケットを既存のものを基準にとらえるからです。消費者のなかにも、「コンビニといえば、ああいう店だ」という固定したイメージが出来上がっているところもあり、そのイメージのなかにいる限り、マンネリ化するだけでしょう。しかし、「コンビニとはこういうものだ」という定義はないのです。大切なのは、新しい時代に合ったものを見つけ出すこと。特に、みんなが困っていることを解決していくことです。

セブン-イレブンが始めた公共料金などの収納代行サービスも、店舗へのATMの設置も、みんながあったらいいなと思っていることを実現したものです。人々の困り事や不満がなくなることはありません。テーマはいくらでもあり、それを考えることこそがコンビニ業界にいる人間の役割です。

写真提供=セブン&アイ・ホールディングス
成長の可能性を秘めているのが、ブライベートブランド、セブンプレミアム。その商品力によってさらなる市場開拓が見込める、と鈴木氏は語る。

仕事の生産性を上げるには

——一方、24時間営業の見直しの背景にもなっている店舗スタッフの人手不足の問題はそう簡単には解決しそうもありません。

【鈴木】考えるべきは、今働いているスタッフたちの生産性を高めることです。店舗の設備の改善やデジタル技術の導入による作業時間の短縮で人手による作業時間を短縮化することも必要ですが、より重要なのは一人ひとりの仕事の取り組み方です。

セブン-イレブンでは、発注分担といって、パートやアルバイトのスタッフにも担当商品を割り当て、発注を任せます。スタッフは、明日の気象情報や行事予定などの先行情報を基に売れ筋商品の仮説を立て、積極的に発注し、POS(販売時点情報管理)システムのデータで結果を検証するという単品管理を実践しながら、発注精度を高めていきます。

それは売り上げ増となって表れ、店の業績に貢献するとともにスタッフの生産性が上がる。仕事のやりがいが増し、定着率も高まる。業績がよく、複数店舗を経営するオーナーの店では、積極的な経営によりこの好循環が回り、人手不足で困るという話はあまり出ません。一方、オーナーが保守的な心理に傾いて消極的な経営に陥り、逆の循環になってしまうこともある。そうならないよう、どれだけ支援できるか、本部の力量がますます試されるようになっているのです。

——仕事の取り組み方といえば、最近の働き方改革についてはどうお考えですか。

【鈴木】時間にも量の時間と質の時間がありますが、最近の残業規制は、単に仕事の量の時間を減らそうとしているように思えてなりません。仕事の生産性が低いまま、量を減らしたら、どうなるでしょう。今の時代は、すべてにおいて「量」から「質」の時代に変わってきています。重要なのは、働く時間の質を高めること、つまり、一人ひとりの質的な生産性を高めることです。

——仕事の生産性を高めるにはどうすればいいのでしょう。

新しい価値を持った商品(写真提供=セブン&アイ・ホールディングス)

【鈴木】問題は、なぜ生産性が高まらないかという点です。それは、人間が基本的には「善意の生きもの」であるからです。人間は善意から、よりよく仕事をしたいと思う。そして、自分が善意なら、相手も善意に受け取ってくれるだろうと思う。しかし、それが思い込みや錯覚である場合も少なくありません。結果、本質的には必要のない本末転倒した仕事をしたことになってしまう。

——本人も善意でしていることだから、思い込みや錯覚になかなか気づかないわけですね。

【鈴木】仕事の生産性を上げるには、必要最低限の人数で期限を明確に区切ることです。人数と時間が限られれば、本質的な仕事に絞るようになり、仕事の質は高まっていきます。

たとえば、私は会社の管理部門の人員については、「増やしてはいけない」といい続けました。人数が少なければ、役割を細分化したり、固定したりせず、「自分は○○の担当だから××は自分の仕事ではない」といった悪しきセクト主義に陥ることもなく、誰もがマルチに対応しなくてはなりません。情報の伝達と共有がスムーズにいき、生産性の向上が図れるのです。