「与えられないとやらない」問題

報酬が先に与えられることで起きる弊害には以下の2点が考えられる。

①与えられないとやらない、となる
②発揮される成果の水準が下がる(この程度で与えてもらえる、となる)

①は想像に難くないと思われるが、何かを与えるから仕事してください、という状態が繰り返されると、与えられてないのでやりません、できません、が意識上成立してしまう。「わたしは、会社にエンゲージしてもらってないのでやりません」という社員、あなたは許容できるだろうか。

② ①にも関連してくるが、成果と報酬の順番を錯誤している状態ではあまり高い水準の成果を意識しなくなる。また実際に成果を果たさなくても与えられる状態では、組織全体的に発揮される生産量の量、質ともに低下する。

このように、エンゲージメントを考える場合、成果と報酬の順序をはき違えないように注意することが重要になる。

1on1がガス抜きの場になっていないか

1on1についても、エンゲージメント施策の一環として採用している企業が多いようだ。ただ、ミーティングの目的と中身を明確に設定しないとおかしくなる。いわゆる、ガス抜きや意見出しの時間として位置付けている場合、もしくは結果的に、ガス抜き機能となってしまっている場合、この1on1の効果は限定的だ。上述のように「話を聞いてくれないからやらない」「意見を取り入れてくれない、ミーティング自体無意味だ」というマイナスの効果が出かねない。

1on1はあくまで、求められる成果に対する進捗を確認し、ショートしている場合には、取り返すための原因分析⇒対策を講じる⇒対策によって生じる結果をコミットメントという場にしなければ生産性の向上に寄与しない。

ガス抜きなどは各自プライベートで好きなことをすればよく、一時的に業務上のストレスを緩和したように見えても、ストレスそのものはそこにあり続けている。単なる一時的“回避”にすぎないのだ。部下の目の前にあるストレスは“回避”ではなく乗り越える、つまり“通過”することによってのみ解消することができる。マネジメントは、目の前のストレスを一時的に回避させるのではなく通過させる方向に導かなければならない。

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冨樫 篤史(とがし・あつし)
識学 新規事業開発室 室長

1980年東京生まれ。02年 立教大学経済学部卒。15年グロービス経営大学院にて経営学研究科(MBA)修了。現東証1部のジェイエイシーリクルートメントにて12年間勤務し、主に幹部クラスの人材斡旋から企業の課題解決を提案。名古屋支店長や部長職を歴任し、30~50名の組織マネジメントに携わる。15年、識学と出会い、これまでの管理手法の過不足が明確になり、識学がさまざまな組織の課題解決になると確信し同社に参画。大阪営業部 部長を経て、現職。著書に『伸びる新人は「これ」をやらない』(すばる舎)がある。