“働きやすさ”を完備する効果は限定的

次にエンゲージメントについて検討する。

マネジメント領域におけるエンゲージメントとは、社員の長期的就業を促すための人事施策や、個人の成長や働きがいを高める活動を指す。エンゲージメントを高めるには、ビジョンへの共感度向上、やりがいの創出、働きやすい環境づくり、成長支援などが具体的施策のようだ。

背景は人材の流動化。キャリアアップやスキル向上を常に意識している優秀な人材は、自身のキャリアプランに合った環境を求めて転職するようになり、多くの企業が、人材流出に頭を悩ませている。若手社員についても3人に1人が辞めるという状況は数十年一定という統計が出ており、離職率の上昇と人材不足の深刻化から、人材確保を経営の最重要課題の一つとして挙げる企業が増えている。

成果と報酬の順序をはき違えない

エンゲージメントとは、一般的に「約束」と訳されるが、本来、組織内におけるエンゲージメント=約束は、求める成果を果たすことによって報酬(福利厚生を含む対価全般)が与えられることを意味する。キリスト教史観における「与えよ、さらば与えられん」ではないが、成果が果たされると報酬が与えられるという順序が、個人と組織のエンゲージメントに他ならない。

現状、やりがいの創出や働きやすさ、社員同士のつながり強化といった施策とそれを補完するサービスが続々とリリースされ活用されているが、少し行き過ぎているのではないだろうか。そのように人材や社員におもねった取り組みをしても効果は限定的と言わざるを得ない。

上述の通り、成果と報酬の「約束」は、成果が先で報酬が後、というのが本来の順序である。石器時代における、マンモスの「肉獲得」(=成果)と「肉を食べる」(=報酬)の順番がゆるぎないのは言うまでもない。現代において、経済や会社の仕組みが、さも報酬を先に支払い仕事をしてもらうという格好になっているが、優秀な人材を獲得できている企業では、そう「見える」だけであって①成果⇒②報酬の原理原則が貫かれている。

やりがいの創出や社員同士、上司部下の信頼関係の醸成、働きがい、働きごこちといったものは本来、成果を果たした“後に”、内発的に発生する、もしくは付与されるものだ。後に付与されるものを先に与えるとさまざまな錯誤が起きる。人材難だからと言って、人材や社員におもねることは大きなリスクをはらんでいる。