変わりたがらない現場を変える術

50代に入り、カスタマーサポート本部長に昇進。この道20年以上のベテランが多く、堅実な仕事ぶりで知られる部署だった。反面、保守的な考え方が多勢を占め、人の入れ替えなどの刺激も少ないことから停滞ムードが漂っていたという。着任して最初に取り組んだのは、組織の活性化だった。

全本部員との面談、初めての新人配属、部員同士の懇親会、新システムの導入──活性化に有効だと思うことは何でも実行した。不満を聞けば一緒に変えていこうと励まし、非効率な業務があれば改善策を提案。「ずっとこうやってきたから変えられない」というベテラン勢に対しても根気強く説得を続け、“保守の壁”を崩そうと奮闘した。

「最初に味方になってくれたのは女子たちなんですよ。女子会をやりましょうと言ってくれて、そこから味方の輪が広がり始めたように思います」

変わりたがらない現場を変えるには、まず味方を増やす必要がある。その点で、伊藤さんの「直接話す、聞く」信条と、持ち前のコミュニケーション力は大いに役立ったに違いない。やがて部員同士の会話が増え、互いに刺激し合った結果モチベーションやスキルも上昇。停滞ムードが漂っていた組織に活気がよみがえった。

「結局、私は人が好きなんだと思います。コミュニケーションやリーダーシップが面白くて、それを生かした組織改革や人財育成にやりがいを感じますね。今担当している働き方改革やひとづくりも、自分から希望した仕事だったので、充実した気持ちで取り組んでいます」

健康経営の一環として開催されている「社員卓球大会」にて。毎回、大いに盛り上がるという。

現在は専務取締役。自らの役割を「管理職時代とは違って、社員に経営理念やビジョンを発信する立場」と語る。同時に、ひとづくり・労務担当として現場とも密接に関わっており、社員の声を経営メンバーに届ける、施策を打つといったことにも情熱を傾けている。

両立や退職の危機を乗り越えてきた伊藤さん。同じ働く女性たちに「つらいこともあるだろうけど、どうか働き続けて」とエールを送る。自分が今、会社の成長に貢献できている実感があるのは、悩んでも働き続けてきたからこそ。尊敬する大先輩の言葉「悩んだ時は一歩前へ」を胸に、これからも前を向いて歩いていく。

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
啐啄同時(そったくどうじ)
「師と弟子の呼応が重要だという意味ですが、上司と部下、社員と経営層にもあてはまると思います」

Q 趣味
旅行、音楽鑑賞、観劇、食べ歩き

撮影=ヒダキトモコ

Q 愛読書
自分の小さな箱から脱出する方法』アービンジャー インスティチュート
OPTION B』シェリル・サンドバーグ/アダム・グラント

Q Favorite Item
プリザーブドフラワー
「取締役に就任した時、部下たちからお祝いにもらった思い出の品。机に置いて毎日見ています」

文=辻村 洋子

伊藤 朋子(いとう・ともこ)
QUICK 専務取締役 ひとづくり・労務担当

早稲田大学卒業。市況情報センター(現・QUICK)入社。ネットワーク部開発課主任、秘書室部長、教育・研修部長、カスタマーサポート本部長などを経て2013年、同社初の女性取締役に。16年に常務取締役となり、働き方改革や人材育成に取り組む。19年より現職。