課長返上を促され「負けちゃいけない」
課長の職務と育児に奮闘していた時期のこと。定時退社が続いたある日、男性上司から「課長は9時10時まで残って部下の面倒を見るべき。それができないのなら課長職を返上してはどうか」と、予想外の言葉を投げかけられた。
「ショックというより、とにかく悔しかったですね。定時退社だからこそ時間内に全力で仕事をこなしていたので、後輩たちのためにもここで返上してはいけないと思いました。幸い部下たちが、課長としてきちんとやっていると言ってくれたため、上司にそれを伝えた上で『返上しません』と答えたんです」
この時期は子育てや地域のママ友との交流も楽しく、キャリアアップへの熱は「正直、少し冷めかけていた」のだそう。だが、この上司の言葉が、成長したいという思いに火をつけた。後に本部長になった時、伊藤さんはまず「私は残業時間ではなく成果で評価します」と宣言したという。
課長返上ショックの後は、育児との両立に奮闘しながらも、人事部課長、秘書室次長、同部長と着実にステップアップ。そして40代半ば、次は、新設される教育・研修部の部長にという辞令が下りた。
新人や管理職の研修を企画する部署だったが、専任の部下はいない“1人部長”。この時のことを、伊藤さんは「肩たたきかな、と思いました」と振り返る。しかも未経験の業務で社内の前例もゼロ。何から始めればいいのかまったくわからなかった。
「必死で企画書を作っても、提出するたびにダメ出しされてばかり。とうとう限界が来てしまって、夫に『もう辞めたい』と相談したんです。そうしたら軽く『そんなに深く考えなくてもいいんじゃない』って(笑)。はっ、そうきたか! と」
夫の軽い口調のおかげで、ダメ出しばかり気にして視野が狭くなっていた自分に気づいた。人の意見に振り回されずやるべきだと思うことをやろう、辞めるならどん底の今ではなくいい時に辞めよう──。そう決意した伊藤さんは、さっそく翌日から行動を起こす。