失敗を経て「私がやらねば」を卒業

その親しみやすい雰囲気は、社長になった今も同じだ。事業ビジョンは熱くしっかり語りながらも、決して相手を身構えさせない。ただ、管理職から経営層へとポジションが変わったことで、リーダーとしての覚悟はより強いものになった。

「自分が最終責任者なのだという覚悟ができました。私の役割は会社を成長させること。たとえ反対意見があっても、結局は事業成長こそが社員やお客様の幸せにつながるはずだと思うようになりました。今は1人の声にとらわれすぎず、事業全体を俯瞰するように心がけています」

就任当時は気負いすぎて失敗もした。ディセンシアの世界観やビジョンを皆と共有したいと願うあまり、全社員の前で延々と抽象的な言葉を語り続けてしまったのだ。「皆からすれば、それはそれとして目先の仕事はどう進めればいいの、という感じだったみたいで(笑)」と山下さん。

その後に行われた従業員満足度調査で、「社長の言っていることがよくわからない」と書かれて大ショック。立ち上げから携わっているだけに、ブランドへの思い入れが強すぎたのかもしれない。もっと社員にとっての“現実”に寄り添う伝え方をすべきだったと反省したという。

以来、ディセンシアは自分一人のものではないと肝に銘じるようになった。次のフェーズは社員や顧客と一緒に皆でつくり上げていく体制、つまり「ブランドの民主化」を進めること。支えてくれる人がいるのだから、私が何とかしなきゃという思い込みは捨てて、もっと皆に任せてみよう──。そんな気づきを得て、今はフラットな気持ちで新事業に取り組んでいる。

「常に変化や挑戦を求める性分なので、こんなに長く勤めた会社は初めて。親も『10年以上も1つの会社にいるなんて奇跡だ』と笑っています。苦しい時期もありましたが、人に恵まれて乗り越えてこられました。今後も新シリーズの展開などさまざまな挑戦をしながら、敏感肌の方々に当ブランドならではの価値を提供し続けたいと思います」

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
自由
「自由にしていいよ、自由に考えてみて、という言葉にときめきます」

Q 趣味
土器・石器収集、古書収集、衝動旅行(朝起きて行き先を決める)

Q 愛読書
東京ミキサー計画―ハイレッド・センター直接行動の記録』赤瀬川 原平

Q Favorite Item
石とiPad
「収集したお気に入りの石をデスク周りに置いています。iPadは会議で出た内容をスケッチとして書き留めるのに必須」

撮影=小林 久井

文=辻村 洋子

山下 慶子(やました・よしこ)
DECENCIA 代表取締役社長 ブランドディレクター

1976年生まれ。鹿児島女子大学卒業後、北京清華大学へ語学留学。帰国後、旅行代理店に入社。退職後に派遣社員となり、数社を経て2007年ポーラ・オルビス ホールディングスに派遣。同年ディセンシアに出向、正社員となる。CRM統括部長、取締役を経て2018年より現職。