2つの心がけで支えられるリーダーへ

部長時代にはキャリア最大のピンチと転機を経験した。ある時、売り上げの約7割を占める人気シリーズのリニューアルを決断。よりよい商品にできると確信しての決断だったが、変化を望まない顧客にどうメリットを伝えればよいか、悩み抜いた。

伝え方を間違えれば大勢の顧客が離れてしまうかもしれない大ピンチ。たどり着いた答えは「変化を不安ではなく期待に変える」というものだった。山下さんは、サイト上でリニューアルまでのカウントダウンを行うとともに、既存顧客にはコンセプト冊子やトライアルセットなどをギフトとして送付。

山下さんのリーダーシップは、強みも弱みも社員との間で共有するところから始まる

制作物の構成や執筆も自ら手がけ、熱意を込めて魅力をPRし続けた。結果、想定以上の購買を獲得してリニューアルは大成功。作り手側の熱意とメッセージが正しい形でユーザーに伝わり、それが売り上げという結果につながる──。これこそCRMという仕事の醍醐味だいごみと言えるだろう。

もちろん、こうしたプロジェクトを成功させるにはチーム力も重要になる。山下さんは部下たちをどうまとめ、どうリーダーシップを発揮したのだろうか。

「管理職でいられたのは、優秀な部下たちのおかげなんです。私は面倒見のいい上司じゃなくて、しかも苦手な分野はとことんできないタイプ。でも、部下は私の強みも弱みもわかっていて、『これは私がやっておきますから山下さんはどんどん走って』と言ってくれた。本当に感謝しています」

部下に強みや弱みをわかってもらうには、まず自分をさらけ出す必要がある。そのためには普段のコミュニケーションが重要だ。社員に聞くと、山下さんは雑談の達人のようだ。部下が近くを通れば「お菓子あげる」「最近どうよ」と話しかけ、トイレで会えば「ちょっと聞いてよ」と悩みを愚痴る。そんな親しみやすい雰囲気に、社員は「身構えずに話せる」と口をそろえる。

加えて、経理や総務などの苦手分野は「苦手」と宣言して得意な人に任せるという。たくさん雑談をすること、できるふりをしないこと。この2つの心がけが、山下さんを“支えられるリーダー”にしているようだ。