本当の試練は事業立ち上げ後にやってきた
やがて、派遣契約が切れると正社員に登用。その数カ月後にはディセンシアが営業を開始する。初出荷も無事に済ませ、新ブランドの立ち上げという面ではゴールを迎えることができた。しかし、ホッとしたのも束の間、本当の試練はここからだったという。
「実際にビジネスが動き出すと、担当業務はさらに増えました。自分の器が与えられた役割に追いつかず、無力さを思い知らされてばかりで……。自由にやらせてもらえた反面、ほめられることも少なく、『私の存在意義って何?』と自問自答し続けていました」
無名の新ブランドということもあって売り上げもなかなか伸びず、成功体験のない期間は4年以上も続いた。この間、過労性のうつ病と診断されたことも。退職を考えたこともあったが、「この事業を成功させた上で次を考えよう」と踏みとどまった。顧客に直接会って思いを聞きとるなど、敏感肌に真摯に向き合うディセンシアの思想に強く共感していたからだった。
ようやく気持ちが上向いたのは35歳の時。CRM(既存顧客向けの販売促進)の専属担当になり、初めて顧客と密接にかかわる仕事につく。顧客分析の基づいて効果的なメッセージを発信する、論理的かつ創造的な業務で、この二面性が山下さんの性分にぴったりハマった。外部コンサルタントなどのサポーターにも恵まれ、それまで苦しさしかなかった仕事に、徐々に喜びが生まれ始めた。
「そのうちにお客様の数が増え、売り上げも上昇し始めたんです。お客様から感謝のお手紙をいただく機会もあり、私にもちょっとは存在意義があるのかなと思えるようになりました」
山下さんがCRMを担当して3年後、ディセンシアは初めて黒字化を達成。大きな成功体験と言えそうだが、「売り上げより敏感肌の方に真に寄り添えているかどうかが重要」と、ストイックな姿勢でさらに成長を目指す。そして40歳の時、「いつの間にか肩書がついて」CRM部門の部長に昇格した。