天丼てんやの海外FC1号店。昨今は東アジア、東南アジアでの展開を進めている。

外食冬の時代をどう生き抜くか

——「私たちの会社は何のために存在するのか」を、常に問い続けるということですね。

【菊地】そうです。1956年に制定されたロイヤルの経営基本理念には、こうあります。「お客様から代金をいただくからには、食品は美味しくなければならない。調理・製造も取扱いも衛生的でなければならない。サービス・販売は、お客様の心を楽しませ、社会を明るくするものでなければならない。以上のつとめを果す報酬として、正当な利潤を得られ、ロイヤルも私共も、永遠に繁栄する」と。まさしくロイヤルの存在意義です。店のサービスレベルが低下して、地域に必要とされなくなってしまったら、ロイヤルの存在価値は失われてしまう。これは不断の努力を重ねてはじめて維持できるものです。

——日債銀が経営破綻した後、外資系のドイツ証券に転じ、2004年に当時のロイヤルに就職されました。

【菊地】ロイヤルにいた日債銀OBに「手伝ってくれないか」と声をかけられたのがきっかけです。私にとっては畑違いの業界への転身でしたが、銀行・証券の仕事を通じて培った自分の経験、ファイナンスの知識を、事業会社の経営に役立てたい、という思いがありました。また、当時、ロイヤルの創業者・江頭匡一が実質的に引退し、カリスマがいた会社から普通の会社へと展開していくので力を貸してほしい、と請われたことも、転職へと心が動いた理由です。

——初めてロイヤルという会社を見たとき、どんな印象を持ちましたか?

【菊地】強烈なリーダーシップを持つ創業者のいた会社らしくトップダウンで組織が動いていました。その一方で、従業員のお客様に対するコミットメントが強くて、すごく真面目な社風だな、とも感じました。例えば、オフィスのトイレに洗面台がありますよね、そこが少しでも濡れていたら、必ず従業員が拭いている。すべての従業員が当然のようにそうしているんです。これは、この会社が持っている素晴らしい文化だと思います。

——入社後は総合企画部長として事業計画などを担当した後、経営状況が厳しいなか、菊地さんはロイヤルHDの社長に就任されました。

【菊地】リーマンショックの影響などで2008年、2009年の2年連続最終赤字となっていました。第一の課題は、赤字からの脱却です。国内の外食産業は冬の時代を迎え、「ロイヤルホスト」も既存店売上高が前年を下回り続けていました。このまま推移したのでは、会社の経営が立ち行かなくなりかねない。もう、日債銀の破綻のような体験はしたくないし、社員を同じ目に遭わせたくないという危機感がありました。

そして第二は、社内に存在する3つの壁を取り払うこと。3つの壁とは「経営と現場の壁」「営業部門と管理部門の壁」「各事業会社間の壁」です。ロイヤルHDは事業の特性上、全国に800もの店舗や事業所があって、たとえば本部から現場へ一方向の通達というコミュニケーションになりがちです。これでは意識を統一することも、会社の方向性を徹底することも難しい。改革を進めるには、トップである私が率先して意識を変え、アクションを起こすことにしたのです。

(文=梅澤 聡 撮影=小川 聡(菊地唯夫氏))