3年前に「IoT文具をつくろう」とスタート
中井さんの所属する事業開発センターは、文字どおり「事業」を「開発」する部署。所属グループは「ネットステーショナリー」なので、インターネットも意識して文具を開発します。既存事業からの“しばり”はないのですが、基礎研究をする研究所ではなく事業なので、一定の期限内に商品としてカタチにしなければなりません。
「IoT文具をつくろう」とスタートしたのが3年前の2016年夏。文具+センサーという構想は当初からあり、「モノにセンサーを積んでデータを取り込めれば、面白いことができそう」というノリだったとか。多くの開発現場で出てくるような話です。
「コクヨには、ノートやハサミ、筆記具など文具・事務用品が数多くあります。その中でデータとの親和性を感じたのがペンでした。『書くこと』にもこだわってきた会社なので、子ども時代からそれに慣れ親しんでいただきたい思いもありました」(中井さん)
「技術優先」で突き進んでしまった
「持ち方を矯正するペンや、マイクを搭載したペンなどさまざまな意見が出た中で、当初進めていたのは『見守りペン』でした。共働き家庭も増えて、日々、子どもが宿題に取り組む状況が見られない家庭も多い。それなら社会的価値があると思い、搭載機能の中身や、それが技術的にできるかどうかなどを議論して、3C分析(市場・顧客、競合、自社)や4P分析(製品・価格・流通・販売促進)を進めていきました」
でもスタートして1年たった頃、活動は「壁」にぶち当たったそうです。
「共働き世代というターゲット層へのアンケートで、評価がいまいちだったのです。デプスインタビューをしてみると、遠隔で子どもの学習を監視したいというニーズよりも、時間がなくとももっと子どもの学習にかかわりたいというニーズが強いことがわかりました」
「こういうのがあれば便利だろう、社会的意義も高い」と信じて開発を進めてきた中井さんたちにとって、打ちのめされるような思いでした。