人事部長時代には叶わなかった2つの願い
【白河】ライフイベントで、どうしてもキャリアの踊り場期ができがちなので、そこをどう変えていくかは非常に重要だと思います。ANAグループのように女性への支援、つまり産休・育休制度や時短勤務制度などが手厚いと、その分男性より昇進が遅れる「マミートラック」の問題が起こりがちです。
【片野坂】その点は私も問題視していました。実は人事部長だった5年間は、そこを変えようとしたんですよ。当時は、女性が産休・育休で約1年間休むと、復帰後に評価が落ちていたんです。大半の男性社員も、仕事をしていなかったんだから評価が落ちて当然という考え方でした。私は「能力が落ちたわけではないのにそれはおかしい!」と強く反対して、何とか皆の意識を変えようと頑張っていました。
【白河】評価は重要ですね。産休・育休に入る前と復帰後とで能力が変わるわけではないのに、昇進や昇給が遅れる、重要な仕事を任されなくなるというのは、多くの女性が納得いかないところでもあります。
【片野坂】人事部長時代にはもう一つ、女性の採用数を抑えて欲しいという男性事務方の声が上がりました。女性は結婚退職があり、出産の時期に休むので、あまりたくさん採ると大変だからと。これもおかしいですよね。私は娘がいることもあって、やはり反発しました。ここ5~6年は、ANAの総合職であるグローバルスタッフ職(事務)の新入社員の男女比率はほぼ半々になっています。
【白河】今おっしゃった2点は、多くの企業の本音でもありますね。でも、それに対して「おかしい!」と声を上げる人がいなくては、女性活躍は進みません。人事部長時代に皆の意識を変えようと努力された結果が、今につながっているのではないでしょうか。
【片野坂】残念なのは、私が人事部長のうちには変えられなかったこと。しかし、今は2点とも改善されました。今の当社では、産休・育休を取っても評価や昇給は他の社員と平等で、管理職にもチャレンジすることができます。また、採用に関しても男女同等になっています。加えて、働き方改革の面でも残業削減や有休取得が大きく前進しました。私の人事部時代の念願が大きく改善されたのは嬉しいです。
出産が賭けにならないように改善が必要
【白河】出産や育児が不利になることなく、復帰後も両立しながら昇進していけるコースが用意されたのですね。では、残る課題は何だとお考えですか?
【片野坂】産休・育休後に同じ職場に戻るのが難しいという課題が残っています。パイロットや客室乗務員は同じ職場に復帰しやすいのですが、総合職はまだ簡単ではありません。お休み中、その人のポジションには他の社員が就くので、専門性が強い仕事ほど、その“代わりの人”がそのまま定着してしまうこともしばしば。そのため、総合職の女性にとっては、同じ職場には戻れないかもしれないという意味で、出産が賭けになってしまう現状があります。
【白河】その問題については、本人の思いも聞きとる必要がありますね。復帰後も同じ職場でバリバリ働きたいのか、子育てを優先したいのか、違う専門性を身に着けたいのか……。「育児中で大変だろうから」と勝手に配慮して仕事を減らしたり、同じ能力なら男性のほうが選ばれたり、といったバイアスがかからないようにしたいものです。
【片野坂】やはり、希望をしっかり聞きとりながら改善していかなければなりませんね。出産が賭けになってしまわないように、まだまだ取り組んでいかなければと思っています。