「夜遅くまで研究する生活はもうできないし、最先端技術を学べる海外の学会に当分行けそうもありません。研究結果を自分で出したい欲もありますが、それはある程度若手に任せたほうがいい。出産と子育てによって、私は私でやるべきことがあるはずだとリセットできました」
職場復帰後“居場所がない”と感じたが、すぐに技術開発のリーダーを任され、第2子を妊娠。この冬から2度目の産休と育休を迎えることになった。
「1度経験したので、今回はあまり不安がありません。育休明けにも、またなんらかの仕事があるだろうと楽観視しています」
育休明けの女性社員には、職場復帰後の働き方について上司と話し合うための面談シートを準備。その上司には、性別を問わない育児休暇への対応など、多様なマネジメントについてのハンドブックを配布している。“子育て”は当事者だけが抱えることではなく、部署や会社全体の課題だとの意識が高まっている。
中外製薬との統合後、人財育成部への異動
現在会社全体で女性管理職の比率は約13%。その1人である高野香奈子さん(40代、入社19年目)のキャリアのスタートは、ロシュ社の子会社だった日本ロシュ社(当時)の派遣社員。その後正社員になり、中外製薬との統合後、人財育成部への異動を経験。
「実は1度転職しようとしたことがあります。相談した転職エージェントに『今の職場で“やりきった感”はありますか?』と問われ、そうじゃないと気づいて。現状の転職は“逃げ”だと思い、会社でやれることは何かを考え直しました」
その後高野さんは「社内公募制度」を利用して調査部に異動し、17年に管理職登用試験に合格。18年の秋にグループを統率するGMになり、着実にステップアップしている。
この社内公募制度とは、部署ごとの人材募集が社内イントラ上に公開され、その部署に行きたい人は非公開で応募できるというもの。書類選考や面談を経て合格すれば希望先の部署に異動できるので“社内転職”と言ってもいい。高野さんのきめ細かな分析能力を買っていた女性上司が、公募への背中を押した。
調査部では、薬の開発を進めるのかストップさせるのか、その判断材料を集めて調査し、正確な報告を部長やユニット長に提出する業務に就いていた。冒頭の通り、薬には開発から発売までに莫大(ばくだい)な資金と、臨床試験や非臨床の実験などで長い長い時間が必要だ。良い薬であっても、採算が取れないなら、早々に開発から撤退しないと会社に大きな損失を与える。調査部が出す判断材料は、ときに人の運命をも左右する。高野さんの先輩アナリストが、ある開発プロジェクトの中止資料を提出したため、当該プロジェクトのリーダーが会社を去らざるをえなかった。