“ザ・日本の会社”が見事にダイバーシティを達成しグローバル展開する企業に成長
2500億円――。この数字が何を表すか、想像がつくだろうか。1つの薬が、開発や臨床試験などを経て製品化されるまでに、失敗も含めた必要な資金だ(米国タフツ大学の研究による)。それゆえ製薬会社では、資金面はもちろん、いかに有能な人的資源を集め、長く効率よく働いてもらうかが、大きな課題となる。国内大手製薬会社の1つ、中外製薬は、以前は処方箋不要の一般消費者向け商品も販売していたが、2002年に巨大グローバル製薬会社であるスイスのロシュ社とのアライアンス提携をする。以降、抗がん剤などの医療用医薬品に特化し、サイエンスやイノベーションで勝負する会社に生まれ変わった。それに伴い、経営面でも人事面でもダイバーシティ施策がマストとなった。
上席執行役員の海野(うんの)晋哉さんは19年前に銀行から中外製薬に転職。会社の変容を肌身で感じていた。
「ロシュ社との提携交渉が私の最初の業務でした。当時は、絵に描いたような“日本の会社”で、営業の要のMR(医療情報担当者)のほとんどが男性、結婚後の女性の離職率が高かった。提携後にロシュ社が有する多くの薬が日本に入ってきて、それらを国内で開発・販売するために多くの人材が必要になったのです。そこで06年から3年間、大量の新入社員を、男性の主戦場だったMRでも、男女問わず採用しました。その大量採用世代の女性社員が結婚や出産後も長く働ける環境づくり、つまり、ジェンダーダイバーシティに注力していかないと競合他社に勝てないのです」
自分の強みを見直すキャリア相談室
その施策の一環に「キャリア相談室」がある。常駐の相談員が社員のさまざまなキャリア相談に乗る場だ。
「相談室は開室から12年目を迎えました。当初は対象をBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング=業務改革)により配置転換された社員を想定して開設されましたが、全社員に向けてのキャリア相談の窓口となりました」と、人事部・キャリアコンサルタントの山本秀一さん。産業医と連携してメンタルケアも行っているため、当初は“かけこみ寺”的な目で見られることもあったが、地道な周知と広報活動により、キャリア相談をする社員が年々増えてきている。相談者は、全社員数の男女比で考えると、女性のほうが男性の倍ぐらい高い。