一方で、育児中の女性MRのラインマネジャーはまだいないので、これから管理職を目指す女性MRのロールモデルが不在なのが課題だ。
「多くの女性はコツコツと地道に勉強するし、コミュニケーション能力が高いので本来はMR向き。社内にお手本がいないのであれば、ロシュ社や、社外からモデルとなる女性を呼べばいいのです」と前出の海野さん。業界の規制が厳しくなってきており、高級なバーに医師を接待するなど、ドラマのような昭和型の営業はもはや昔の話。現在は正確な情報と高い製品のクオリティーで薬を売る時代。製薬会社は、真面目で勉強熱心な女性MRの可能性を活用すべきなのだ。
チームリーダーになったとたん妊娠が発覚
ロシュ社との提携による経営戦略以外に、中外製薬の強みは何といっても「技術力」だ。ひと口に“薬”といっても、ジェネリック医薬品を含む低分子薬、バイオテクノロジーを駆使した高分子薬、そして中外製薬が“新たな創薬の柱”としてオリジナル技術を開発中の中分子薬がある。その研究者の1人が、小嶋美樹さん(38歳、入社11年目)。工学部と大学院でタンパク質工学の博士課程を修了して入社、中分子技術の立ち上げに携わる。そしてやっと“薬になるかもしれない”という製品化に向けたチームのリーダーになった矢先の第1子妊娠。
「妊娠したのが30代半ば。ここで産んでおかないと、という気持ちがある半面、研究者としてこれからというときだったので複雑でした。けれど同じチームに子育て中の先輩がいて悩みを共有できたし、上司と相談して違うリーダーに業務を引き継いでもらいました」
産休、1年半の育休を経て、時短勤務で職場復帰した。しかし自分がいなくても仕事は回っていくのだと、少し疎外感に陥ったそうだ。しかし組織とは本来そういうもの。誰かがいなくなれば他の誰かがその役割を担い、業務は継続される。そうでなくては組織として成立しない。スペシャリストの研究職であっても、だ。
「以前は、この機械はこの人じゃないと使えない、みたいな職人かたぎな面があったんです。でも、技術は日進月歩だし、誰もが使えるような仕組みじゃないと効率が悪い。だから私は、働き方をシフトチェンジしないといけないなと」
根っからの“リケジョ”である小嶋さんだが、研究に没頭し国内外の学会に頻繁に出席するステージから、業務全体を俯瞰(ふかん)するマネジャー的なステージに移行しようと決意する。