育休をとった男性社員が復帰直後に転勤を命じられた「カネカ問題」。男性の育休取得が叫ばれてはいても、現実にはまだまだこうした事例が続きそう。男性学を研究する田中俊之先生は「日本にはまだ建前と本音がズレている企業が多い」と指摘します。企業がイクメンを応援できない本当の理由とは?
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男性の育休や定時帰り 企業の本音は

高度成長期に出来上がった「男は仕事、女は家庭」という役割分業は、今や時代遅れと言われています。現在の日本は低成長期。父親の収入だけでは家族を養えず、フルタイム共働きの夫婦が多数派になっています。当然、男性も子育てに参加するようになり、企業もイクメンを後押しする姿勢を見せ始めました。

しかし、そうした姿勢はまだ建前の域を出ていないのかもしれません。最近、化学メーカーのカネカが、育休明けの男性社員に転勤を命じたとして話題になりました。カネカは「育休への見せしめではない」と否定していますが、結果としてその男性社員は退職しており、パタハラ(パタニティー・ハラスメント=育休を利用する男性への嫌がらせ)ではないかと批判が殺到しました。

育休制度は男女ともが利用できるものですが、カネカにとっては、決まりだから作った建前上の制度にすぎなかったのでしょうか。一連の流れを見る限り、本音では「男が育休をとるなんて」と考えていたようにも受けとれます。これはカネカに限らず、多くの日本企業に見られる風潮だと思います。

昭和を引きずった「定時」の定義

もう一つ、身近な例を挙げてみましょう。私の知人の男性は、育児のために頻繁に定時帰りをしていました。するとある日、女性の上司から「定時で帰り過ぎ」と怒られたそうです。本来なら、定時帰りする人とは“普通”の時間に働き終えて帰宅する人のこと。しかし、その上司は“最低限”の時間しか働かない人、と捉えていたようです。

1日の労働時間は法律で定められていますから、会社にはそれにのっとった制度もあるはずで、上司も知っているでしょう。ただ、それは建前上の制度として知っていたにすぎず、本音では定時=最低限と考えていたわけです。

この2つの例からは、日本の建前社会の気持ち悪さが見えてきます。口では男性の育児参加や残業削減をうたっていますが、本音は「男は家庭の都合で休んだりせず長時間働くべき」なのではないでしょうか。企業やそこで働く人たちの建前と本音の間に、今、大きなズレが生じているのです。

昭和の高度成長期と令和の現代とを比べると、男らしさの像は大きく変わりました。しかし、日本の企業風土や企業文化はまったく変わっていないように思えてなりません。変わったのは建前だけであり、本音の部分ではまだまだ昭和を引きずっていると言えるでしょう。