日々の決断や問題解決において最も重要なのは、適切に物事を判断し、的確な行動をとるための思考力だ。外資系コンサルタントの吉澤準特さんは「その思考力を体系的に高めるためのフレームワークが『PAC思考』であり、これが本質的に物事を探究する思考(クリティカルシンキング)の基礎となる」という――。

※本記事は吉澤準特『クリティカルシンキング入門』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

食料品店で鶏の卵を選ぶ
写真=iStock.com/Hleb Usovich
※写真はイメージです

なぜ、思い違いが生じるのか

ある日、プログラマーの夫に妻が買い物のお願いをしました。

「買い物に行って、牛乳を1個買ってきてね。卵があったら10個お願い」

(※説明のわかりやすさを優先し、牛乳と卵の数え方を「個」で統一しています)

夫はしばらくして、牛乳を10個買ってきました。妻は驚いて言いました。

「どうして牛乳を10個も買ってきたの!」

夫は答えました。

「だって、卵があったから……」

これはインターネットで話題になったエピソードをアレンジしたものです。この話の面白い点は、妻による条件の指定が精密ではなかったことから、プログラマーである夫が誤った条件を設定してしまったところにあります。

2人の思い違いはどうして生じてしまったのか、それは買い物に対する前提が異なっていたからです。二人はそれぞれ次のように捉えていました。

(妻)前提:牛乳を1個買う必要がある。卵があったら、卵も買いたい。
(夫)前提:牛乳を1個買う必要がある。

この前提のもとで買い物をすると、「卵があれば10個お願い」という条件(仮定)を示した時の2人の捉え方は次のようになります。

(妻)条件:卵があれば、卵を10個買う。(牛乳以外に卵もほしいから)
(夫)条件:卵があれば、牛乳を10個買う。(牛乳だけほしいから)

前提と条件が正しければ結果も正しくなる

買い物ミスの直接的な原因は、条件において「何を10個買うか」を指定していなかったことです。しかし、前提として「卵があったら、卵も買いたい」という共通認識を持てていれば、条件の意図を正しく把握して、牛乳ではなく卵を追加で買う指示だと、夫は理解できたことでしょう。

前提と条件の正しさを夫が確認していれば、正しい結果になっていました。前提と条件の関係が適切であるか、図表1で整理してみましょう。

【図表1】前提と条件の関係
出典=吉澤準特『クリティカルシンキング入門』(PHPビジネス新書)

まず、妻の考え方について。牛乳と卵を同時に必要とする状況はあり得るものであり、前提として明確に示されていませんでしたが、卵を10個買うことには合理性があるといえます。

一方、夫の考え方について。卵が店にあるかどうかが牛乳の購入数に影響すると考えたのでしょうか? 卵の有無が牛乳の購入数を変化させる要因であると考えたにもかかわらず、卵自体は購入していないとしたら、その行動に合理性はありません。これらのロジック構造を前提と条件に分けて示すと、合理性の有無をより簡単に理解できます。夫の考え(ロジック)を見れば、「なぜそう考えた?」という疑問しか生まれません。