現実は仕事に身を捧げる人=デキる人

カネカ問題に対しては「今はそういう時代じゃない」という声も聞こえてきますが、現実に起きているということは、今はまだ「そういう時代」なのです。次の時代へと歩みを進めるには、まず一人ひとりが建前と本音のズレを正す必要があると思います。

では、なぜズレが起きるのでしょうか。私は、多くの企業の評価基準がいまだに「生活態度としての能力」に設定されているからだと考えています。これは、自分の生活のすべてを仕事に注ぎ込める能力のことで、1990年代に経済学者の熊沢誠さんが提唱した言葉です。

転勤も残業も嫌がることなく引き受ける人、つまり会社に身を捧げている人ほど、能力が高いと評価される。時代遅れに聞こえるかもしれませんが、この評価基準は今も多くの企業で変わっていません。転勤を断る、時短勤務やリモートワークを活用する。こうすると、評価が下がることが珍しくないのです。

男性の働き方が変わらない理由

この基準からは、「男は休んだりせず長時間働くべき」という、高度成長期に出来上がった日本社会の本音が透けて見えます。この本音を変えるのは生易しいことではありません。まず評価基準を変え、男性の働き方を変えた先に、ようやく本音に変化が起きるのではないかと思います。

女性の働き方は、専業主婦からパート、フルタイムへと変化してきました。産休や育休の制度もでき、仕事と育児の両立も可能になりました。女性の働き方は変わったのに、なぜ男性は変わらないのか。それは、女性の変化が企業にとって調整弁になったからです。

女性が労働力不足や育児との両立問題を解消してくれたおかげで、男性は働き方を変える必要に迫られませんでした。そのため、フルタイム共働き時代になった今も、男性は会社に身を捧げよと求められ続けているのです。

男女とも利用できる育休制度や、残業削減はとても意義のある取り組みです。これを建前上の制度にしないためにも、企業は「会社に身を捧げる人=能力が高い人」という評価基準を一掃すべきでしょう。建前と本音のズレは、この基準が消え去り、男性の働き方が変わって初めて解消に近づくのではないかと思います。