号泣した休刊説明会
翌年には第一子を出産し、ワーキングマザーに。職場では『ゼクシィ』東日本版の編集長を務めることになる。自分の実体験が編集の現場で活かされ、部下のメンバーにも自分の思いを込めて伝えるようになった。
さらに2人目の子どもを出産し、育休明けで復帰するタイミングで辞令を受ける。マタニティ&ベビー情報通販誌『赤すぐ』への異動だった。「子育てを抱えながらでは不安もすごく大きかったけれど、新しいことにもう一度挑戦できるという期待があって」と顧みる尾花さん。だが、編集長として課せられた任務は厳しかった。
通販事業は低迷しており、部数を伸ばすために『ゼクシィ』での実績をもとに、表紙から記事のラインナップまで一新。付録の打ち出し方なども変更をしたが、一方で、ネットショッピングのチャネルなどの環境変化に伴う競争激化は厳しくついに「休刊」が決定する。編集長就任からわずか半年後、上司から告げられたときは言葉を失うくらいショックが大きかった。
「『赤すぐ』は23年の歴史ある媒体で、創刊のときからお仕事をお願いしている方もたくさんいらしたので、長年関わっている人たちのことを考えると本当に申し訳なくて……」
その時点で説明会を開き、外部のスタッフに事情を伝える場を設けた。編集長として任を負った尾花さんは詫びることしかできず、胸に迫る思いをこらえきれず号泣してしまう。「へたれな編集長でした」とはにかむが、そこで挫けてはいられない。最終号の刊行まで半年あまり、最後の編集長として自分に何ができるか、どんな形で「休刊」を迎えるかをひたすら考え続けた。
新たな挑戦を後押しした上司の一言
「休刊になってしまうのは悲しいけれど、最後は関わってきた人たちが笑顔で終われるようにしたい。だから、ここ数年でいちばんいい結果を出そうと思ったんです」
ひたすら悩んだ末にたどり着いたのは、「読者がたくさん登場する号」「関わる人みんなが笑顔になれる号」にすること。そこで終わりではなく、次へつながり「新たな旅立ち」をイメージさせるメッセージを打ち出したいと、コピーライターとも話し合いを重ねた。さらに『星の王子さま』とタイアップした付録も好評で、『赤すぐ』最終号は圧倒的な販売部数をあげ、有終の美を飾る。その先には新たなチャレンジが待ちかまえていた。尾花さんは『ゼクシィBaby』編集長に就任し、新媒体の立ち上げに取り組むことになった。
社内には『赤すぐ』で培われたノウハウがあり、広告を出すクライアントからの信頼も厚かった。その領域で新しい事業の検討が始まり、フリーペーパーをつくる案が浮上する。産院にラックを置かせてもらい無料配布することで、一人でも多くの妊婦に提供できるのではと考慮したのだ。
だが、尾花さんの中では悶々とした思いが消えなかったという。市販誌の編集をしてきた身としては、記事や写真デザインへのこだわりも尽きないが、いわゆる広告主体のフリーペーパーでは制約がある。果たして愛情を注ぎこめるだろうかと葛藤もあったと明かす。
「そんなとき上司からひと言、『新しく何かを始めるならワクワクしなければ意味がない』と。ずっとモヤモヤしてけれど、そのひと言をもらって気持ちが切り替わったんです」
ならば、まだ誰もつくったことのないフリーペーパーに挑戦しようと決意。フリーペーパーには読み捨てられるものというイメージもあるが、大切に取っておきたいと思うような情報性があるもの、読者にとって、クライアントにも価値ある媒体を目指す。誌面のクオリティを高めるには編集コストがかかり、広告収益を上げなければならない。管理職として、一緒に働くメンバーや他部署との関わりもより密接になった。
「まずは社内の人に愛されるメディアをつくらなければと思ったのです。そもそも企画に賛同してもらえなければ実現できないし、営業が売りたいと思えるものじゃないと広告はついてこない。この媒体を世に出したいと思ってもらえるよう、社内で共感してくれる人や仲間をつくっていくことを心がけました」