「誰もつくったことがない媒体を創ろう」と決めた
雑誌の表紙をめくると、こんな言葉が目に留まった。〈わたしらしく、ママになる〉。
おなかに赤ちゃんがいるとわかったときの、言葉にならない喜び。ちゃんとした親になれるか、仕事や家事と両立できるだろうかという不安。そうした妊婦の心に寄り添い、どんなときも近くにいて頼ってもらえる存在になりたいーー。リクルートが2017年に創刊した『ゼクシィBaby 妊婦のための本』には、そんな想いが込められているという。
〈目指せ安産!最強アドバイス〉、〈働きニンプに贈る つわり乗り切りテクニック〉、〈生まれたてベビー「ねんね」ガイド〉など、妊娠初期から産後まで役立つ情報を満載。しかも産科医院で無料配布するフリーペーパーだ。『ゼクシィBaby』編集長の尾花晶さんは、創刊当時の意気込みをこう振り返る。
「まだ誰もつくったことがない媒体、『こんなフリーペーパー、見たことない!』と言われるようなものを創ろうと決めたんです」
30代目前で、挑戦した転職
「編集者」として何をしたいのか。この仕事を志して以来、ずっと答えを探してきた。
学生時代、アルバイト先の出版社でそう聞かれ、答えられなかった苦い経験がある。就活では出版社の応募をあきらめ、たまたま縁があったベンチャー企業へ。新卒採用支援の事業に携わり、大学生と話していると「何をしたいのかわからない」と悩んでいる人が多かった。そもそも「教育に問題があるのでは?」と疑問を抱き、教育系の出版社へ転職。編集者としての道を歩み始めた。
小学生向けの教材を担当して6年、仕事の面白さは感じていたが、そこでまた立ち止まる。この先、社内で管理職を目指すのか、それとも……30代を目前にしたころだ。
「もう少し編集の現場で違うことに挑戦してみたい。だったら思いきって外へ出よう!」
新天地で180度変化した価値観
再び転職を決意すると、2008年にリクルートへ入社。配属先を決める面談で「『ゼクシィ』はどうか?」と聞かれた。尾花さんはそのときの心境をこう語る。
「実はブライダルにはまったく興味がなく、自分は結婚式をしないだろうなと思っていました。それでも世の中には結婚式をしたい人たちがたくさんいて、その人たちに対して自分は何ができるだろうと考えた。未知の世界だったので、やってみたいと思えたのです」
実際に現場へ入ると、新鮮な驚きがあった。当時、編集長に言われたのは、「女の人は結婚が決まると、だいたい3歳若くなる」と。ドレスを着てウキウキしたり、花を好きになったり、身も心も華やぐ姿が微笑ましく見える。
入社4年後には自身の結婚も決まり、迷った末に結婚式を挙げることにしたという。
「最初はきらびやかな世界でどこか他人事のように捉えていたけれど、仕事を通してその意義を実感するようになりました。結婚する二人にとっては、自分たちを応援してくれる人たちに祝福されることがそれからの人生の糧になる。家族や友だちなど本当に大切な人たちと楽しい時間を共有することで、幸せを感じてもらえるのも素敵なことですよね」