家事時間が減らない背景に「大和撫子シンドローム」
家族への罪悪感を抱かずに、調理時間を短縮できる。さらに食育や夫婦仲の改善にも貢献してくれるかもしれない。こうした側面もまた、利用者にとって「プレミアム(時短)」な価値を提供してくれる理由だと言えるでしょう。
ちなみに、女性の「ちゃんと調理すべき」との概念は、社会学で「性別役割分業志向」と言われるものです。「男は仕事、女は家事・育児に精を出すべき」との延長線上にある価値観で、私はこれを、女性の側にフォーカスして「大和撫子(やまとなでしこ)シンドローム」と呼んでいます。「大和撫子」を冠に付けた理由は、とくに日本の女性によく見られる傾向だからです。
というのも、実は総務省の経年調査(「社会生活基本調査」)を見ると、我が国の共働き女性が家事や調理にかける時間は、15~20年前と比べてほとんど減っていません(図表1)。
例えば2016年時点で、共働き女性が、家事全体(「家事関連」)にかける時間は、1日あたり4時間18分でした。これは20年前(1996年)の4時間10分と比べて、減るどころか1日8分増えた計算です。
また、家事のうち「調理時間」だけを見ても、2001年から16年までの15年間で、1日わずか18分しか減らなかったことがわかります。この間、時短に貢献するお惣菜や「ウーバーイーツ」をはじめとする便利な宅配サービスが多数登場したにも関わらず、です。
料理がラクになる3つの方法
調理を軽減する手段は、おもに3つしかありません。すなわち、①惣菜などの中食や外食、宅配サービス等の利用による「外部化」。②伴侶や母親など、自分以外の第三者との「分業化」。そして、③自身のテクニックや創意工夫、あるいはKit Oisixのようなミールキット等を用いることによる「時短化」です。
私たちが食調査を行なうと、多くの共働き女性は「母として、妻として、ちゃんと調理しなくては」との意識から、週末に「常備菜」をまとめてつくり置きしたり、時間をかけて「キャラ弁(キャラクター弁当)」をつくったりする傾向が、はっきり見てとれます。まさに大和撫子シンドローム。だからこそ、トータルの調理時間は減らないのかもしれません。
これは必ずしも悪いことではないでしょう。でも、いまや既婚女性のうち、18歳未満の子を育てながら働く、いわゆるワーキングマザーが約7割(68.1%)を占める時代。深刻化する人手不足問題もあって、パート・アルバイト等の非正規雇用の女性を、企業が正社員化する動きも進んでいます。
だとすれば、「家事も育児も仕事も、すべてちゃんとやろう」と抱え込んでいると、働く女性自身がどんどん追い込まれてしまいますよね。
実は、Kit Oisixのようなミールキット市場は、アメリカでも大ブレイク中。ある食品市場調査会社(Packaged Facts)によると、18年秋の時点で、2年前の5倍以上にまで成長したそうです。
「プレミアム時短」が今後、日本でも働く女性の救世主になり得るのか。それを決めるのは、女性自身の「割り切り」にあるのかもしれません。
世代・トレンド評論家、マーケティングライター
インフィニティ代表取締役。1968年東京生まれ。日大芸術学部 映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。5年間の編集及びPR担当の経験を経て、フリーライターとして独立。広告、マーケティング、行動経済(心理)学を学び、2001年4月、マーケティングを中心に行う有限会社インフィニティを設立。同代表取締役。数多くのテレビ・ラジオ出演や大学での授業、執筆活動等を続ける一方で、各企業との商品開発や全国での講演活動にも取り組む。現在、立教大学大学院(MBA)・博士課程前期 在学中。トレンド、マーケティング関連の著書多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は、新語・流行語大賞に最終ノミネート。NHK「所さん!大変ですよ」、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、読売テレビ「ウェークアップ!ぷらす」ほかでコメンテーター等を務める。14年より、内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターほか、官公庁関連委員多数。近著の『「おひとりウーマン」消費!~巨大市場を支配する40・50代パワー』(毎日新聞出版)ほか、著書多数。