「未充足ニーズ」を探せ

私たちマーケターは、新しい商品やサービスを考えるうえで、よく「未充足ニーズ」という言葉を使います。提唱者は、経営学博士でマーケティング実務コンサルタントの梅澤伸嘉さん。少し難しく聞こえますが、意味は文字通り、既存の商品やサービスで「まだ満たされていないニーズ(需要・欲求)」のことです。

たぶん皆さんも、日々の生活で感じていることでしょう。例えば、自分は右と左の足裏のサイズが少し違うから、靴売り場で「もし右23.0センチ、左24.0センチの靴を買えればいいのに」。あるいは、自分はお酒に弱いから、スーパーや百貨店のワイン売り場で「もし1本あたりの容量が少ないワインが並んでいれば買うのに」など。

こうした「もし○○であれば(買うのに)」といった欲求が、未充足ニーズです。先のミールキットの例で言うと、「もし調理時間を短縮してくれるものがあればいいのに」となりますが、さらに一歩、機能面だけでなく「ココロ(感情面)」の未充足エリアにまで、踏み込んでみてください。

すると、「時間を短縮してくれるもの」にプラスして、「もし罪悪感をもたずに~」と考えられるのではないでしょうか。

そもそも、私たち女性が調理の時短に抱く「罪悪感」とは何か。根底には、おそらく「妻や母、あるいは女性である以上は、ちゃんと調理すべき」との考え方があるはずです。

Oisixは、そこを理解したうえで、ミールキットに罪悪感を抱きにくいよう、「レンジでチン」で終わりではなく、少し炒めたり焼いたり煮込んだりするという工程を加えました。ミールキットの品数も、1品ではなく2品に。あえてひと手間(約20分)かけてもらうことで、また品数も2品にすることで、「自分はちゃんと調理している」との実感を持ってもらえるようにしたのです。

料理経験のない男性もプラモ感覚で調理できる

またKit Oisixは、時短にプラスアルファの価値を付加しました。それが、「食育」と「夫婦仲」への貢献です。

まず食育については、子どもの「お手伝い工程」を記載した「キッズメニュー」のほか、18年5月から、タレントの小倉優子氏と共に開発したカレーのミールキットを発売。キットには、母親が子どもと調理するうえでの「声かけポイント」を書いたレシピカードや、子どもの食への興味を高める「食育クイズカード」が入っていて、親子で楽しみながら調理できる仕組みを提供しました(現在は販売終了)。

また夫婦仲への貢献では、「Kit Oisixだと、夫や子どももつくれるので助かる」といったお声をいただくようになりました」と広報の西田さん。

というのも、Kit Oisixのレシピカードには、誰でもすぐ調理できる手順が記載されています。これを見れば、従来ほとんど料理をしなかった男性も、プラモデルを組み立てるような感覚で取り組めるそう。この「レシピカード効果」で、旦那さんが食事の支度を手伝ってくれるようになった、との声も寄せられるそうです。