花王アタックZEROの「#洗濯愛してる会」シリーズのCMが人気だ。これ以外にも、男性が登場する洗濯洗剤のCMが目立つようになった。生活史研究家の阿古真理さんは「『家事=女性』という固定観念が変化すること自体は好ましい。しかし、今はまだ、洗濯CMは批判を避けるだけで精いっぱいに見える」という――。
ランドリールーム内の衣類洗浄機
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「#洗濯愛してる会」シリーズの人気

近年、洗濯CMがさま変わりしつつある。きっかけを作ったのは、2019年4月から続く花王の洗濯用洗剤、アタックZEROの「#洗濯愛してる会」シリーズだ。出演するのは松坂桃李、菅田将暉、賀来賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮の人気若手俳優5人。彼らが熱狂しながら洗濯機で洗濯に取り組むさまを、コミカルに描く。このCMの描写に違和感を抱いている私は、少数派なのだろうか。

何しろ、世間一般はこのシリーズを高評価している。このCMが2019年5月、CM総合研究所が毎月発表する「作品別CM好感度ランキングTOP30」で1位に輝いたほど人気になったことから、放送が始まってすぐ、日本経済新聞や「東洋経済オンライン」などの大手経済メディアが、次々と花王に取材した記事をアップした。「東洋経済オンライン」の2019年5月22日配信記事「花王『アタックZERO』の洗濯男子が愛される理由」では、CM開始直後から40代主婦を中心に人気となり、やがて男性を含む幅広い層から支持されるようになった、とある。

同記事によると、花王はあえて“洗濯に深い関心を持たないミレニアル層”を狙いCMを制作。同年5月31日に配信された「NIKKEI STYLE」記事によると、大胆な戦略が購買意欲に結びつき、2019年4月の売り上げは、リニューアル前のアタックNeoシリーズと比べ約2倍になったという。2つの記事を読むと、5人の俳優への好感だけでなく、洗濯がしたくなるなど、家事を魅力的に描いたことも女性が支持する要因のようだ。

「洗剤を投入する」のは最も簡単な工程

人気を受けてシリーズは次々と更新され、今年8月に放送された「無菌レベル応援」編では、夏の汗の臭いが出ないかどうかを検証するため、松坂が洗剤を投入し、後ろで菅田と賀来がメガホンで応援する。2人の頭上には「打倒 夏の汗! 無菌レベルの消臭力!」の横断幕。高校野球のイメージだろうか。洗濯が終わった白い衣類に松坂が鼻を当てるが臭いがない、と3人で大喜びする。

家事をやるべき義務ではなく、楽しいものと捉え直すこのシリーズは、確かに地味な作業に光を当てた。しかし私が違和感を抱くのは、洗濯のうち、洗剤を投入するのは最も簡単な工程だからだ。宣伝したい商品が洗剤だからしかたないとはいえ、大騒ぎしながらやる作業だろうか、とまず思ってしまうのだ。

それより大変なのは、洗濯物を干して取り込み、畳んで収納する、というその後の仕事だ。ドラム式洗濯機の場合は、干して取り込む作業は省略できるが、しわになりやすいのでアイロンがけが待っていることも少なくない。彼らのうち1人でも、後の作業をやってくれるのだろうか。あるいは、無駄に若い力を使うのではなく、そのエネルギーを他の家事に向けてくれないか、と思ってしまう。