働きながら1日3食準備する
子どもたちの夏休みが始まった。幼稚園や小学生の子どもをもつ働く母親たちにとっては悩ましい季節である。給食のない夏休みには3食用意しなければならないし、子どもたちの生活リズムの変化に仕事の時間を調整しなくてはならない母親も少なくないだろう。仕事と育児の両立支援策が整い、出産を機に仕事を辞める女性の割合も減少し、小学生以上の子どもを育てる女性の就業率は8割を超える。それでも家事や育児の負担の多くは依然として母親にのしかかっている。「時間貧困」という観点から、働く母親たちの現状についてみていく。
世界で研究が進む「時間貧困」とは
時間の余裕のなさを示すものとして「時間貧困」という概念がある。アメリカの経済学者Clair Vickeryが1977年に発表した論文で提唱した概念で、生活の困窮度合いを所得といった金銭的な側面から計測するだけでなく、生活時間の不足という非金銭的な側面からも計測するという試みである。ワーク・ライフ・バランスやウェルビーイング(心身の健康)の向上といった課題が重要視されるようになった近年、「時間貧困」は再び注目を浴びており、2000年以降、諸外国でいくつかの研究が発表されている。
生活の困窮度合いを生活時間の不足という非金銭的な側面から計測する理由はなにか。生活を維持するためには、仕事をして生活に必要なお金を稼ぐ以外にも、十分な睡眠や食事をとって次の日の活動に備えたり、家事や育児をして家庭生活を維持したりする必要がある。
さらに、家族の団らんや趣味のための余暇なども心身の健康を維持するうえで必要だと考えると、就労し生活費を稼ぐ以外に、生活を維持するために必要となる時間はかなり多い。家事や育児に必要となる時間は、子どもが幼いほど多いため、幼い子どもを育てながら夫婦ともにフルタイムで就業している場合、時間貧困に陥りやすいことが予想される。