夫婦間における時間貧困率の格差の要因
では、どうして夫婦間で時間貧困率に大きな格差が生じるのであろうか。原因の1つとして考えられるのは、男性の労働時間が長く、家事・育児に費やす時間が短いことだ。経済協力開発機構(OECD)による国際比較をみると、家事・育児にかかる時間の男女比(女性/男性)は、日本で抜きんでて高い。どの国でも女性のほうが家事・育児に費やす時間が多く、おおよそ男性の2倍程度であるが、日本ではその比が5.5倍と大きな差を示している。
もちろん、夫婦の働き方によって状況は異なり、専業主婦世帯に比べてフルタイムの共働き世帯では、夫の家事・育児時間は長い傾向にある。それでも、出産を機に、働く女性の多くが生活時間に大幅な変化を経験していることには変わりがない。
第1子誕生後、男性は労働時間も余暇時間もさほど変化がない
「日本家計パネル調査」を用いた山本勲・慶應義塾大学教授と筆者の共同研究によると、第1子出産後の男性と女性の生活時間の変容を分析したところ、男性においては、労働時間や余暇時間にさほどの変化がない一方、女性においては、仕事の中断や労働時間の短縮に加えて、余暇時間が顕著に減少していることが確認された。出産・育児により女性が担う代償を「母親ペナルティ」と呼び、就業の中断や所得の低下などを指摘しているが、生活時間においても少なからぬ代償が生じているのだ。
この状況をどう解決すべきか。まずは、長時間労働を是正し、男女ともに家事や育児に取り組む時間的余裕を保障する必要があるだろう。日本人の労働時間は国際的にみて長く、それゆえ、睡眠や余暇に費やす時間は短い。少子化が加速する中、子どもが産まれると生活時間に余裕がなくなるという状況を放置することはできない。働き方改革は実行中であるが、より一層の促進が期待される。
1978年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。London School of Economics and Political Science MSc修了。慶應義塾大学大学院商学研究科単位取得退学。博士(商学)。著書に『格差社会と労働市場』(慶應義塾大学出版会、2018年、共著)『コロナ禍と家計のレジリエンス格差』(慶應義塾大学出版会、2023年、共著)など。