最大の課題は「法規制の整備」
企業がRE100%を実現するには、大きく二つの選択肢がある。一つは、発電事業者やその他供給者などから再生可能エネルギー電力やグリーンエネルギー証書などを購入する方法だ。そしてもう一つは電力を自ら発電する方法。
「イケアは、かねて風力発電に投資をしてきました。企業が自ら発電所に投資をして、そこから電力を調達するなら、ある意味コストの内製化として見て取れるのではないでしょうか。これまでは、どちらかといえば買ってくるものだったエネルギーを、自ら投資、コントロールしてコストを下げ、さらに付加価値をも内製化していくという側面は海外企業によくみられます。国内でもそうした動きは増えてくるかもしれません」
その上で、滝氏はもう一段上を見通す。
「RE100には欧米の自動車メーカーもメンバーとして名を連ねています。完全な予測にすぎませんが、今後、電気自動車の普及にあわせ、それと再生可能エネルギーをうまく組み合わせるような形でノウハウを積み重ね、それをパッケージ化して外販する企業も出てくるのではないでしょうか」
いずれにせよ、脱炭素化は今後の企業価値を高める上で不可欠の要素となりそうだ。
「最近よく耳にするのは『ライバル企業が脱炭素化を全面にアピールするようになったんだけど、ウチの会社はどうすればいいの?』という話。当然、追随せざるをえませんから、一つの企業が脱炭素化に本格的に乗り出せば、その周辺企業もまた脱炭素化に取り組むことになるわけです」
したがって、RE100%を目指す企業や何らかの形で脱炭素化を打ち出す企業は今後も続々と出てくるだろう。
「5年前であれば『脱炭素化なんて絵空事』と実感を伴わないものだったかもしれません。しかしこの一、二年における海外での動きを見ていると『いけるかも』と真剣に考えたくなる材料がどんどん現実のものとして目の前に現れています。再生可能エネルギーや低CO2、省エネといったものがコスト高なものではなく、当たり前のものになりつつあるのです」
一方で、新たな課題も見え始めている。
「はたして法規制などの制度がテクノロジーの変化に追いつくのかどうか。たとえばSNSの利用者が急増しているにもかかわらず、データの活用やプライバシーに関する法規制は後手後手に回っています。同様に、脱炭素化の途上にある今でも、発電事業者でもなければ小売り事業者でもない個人が、自分の家で発電した電力を蓄電池にためて隣人に売ることも技術的には可能です。しかし、さまざまなライセンスや法律の問題があって、それができません。これでは脱炭素化への歩みにブレーキをかけることにもなりかねないわけです」
滝氏は、地域別に議論を進める視点も必要だと主張する。
「都市部と人口密度が低いエリアとでは、再生可能エネルギー依存度にも違いが生じるはずです。また、北海道なら太陽光だけでなく風力発電も有力ですし、日射量の多い九州なら太陽光がより有利になる。そう考えると、地域の実状に合わせた形で進化していくのが自然ですし、それぞれ異なる電力システムが必要なのです」
(文=小澤啓司 写真=iStock.com)
野村総合研究所 グローバルインフラコンサルティング部エネルギー・環境グループ グループマネージャー
1982年愛知県生まれ。2006年早稲田大学商学部卒業後、野村総合研究所に入社。主にエネルギー分野の事業戦略立案、営業改革、業務改革支援、M&A・アライアンス戦略支援に加え、政府・官公庁の政策立案などに従事。共著に『進化する電力システム 市場フロンティアとビジネスモデル革新』『エネルギー業界の破壊的イノベーション』がある。