課題解決には「やり合う」覚悟も必要だ

トランプ氏がやっていることが全て正しいと言っているわけではない。ただし交渉人は交渉を成功に導くために、周辺の味方を得る必要が出てくる。この際には、自分の立場を明確にし、味方に対しては徹底して味方になる。しかし味方になったからと言って、交渉で手加減するわけではない。味方だからこそ、厳しい交渉を仕掛ける。交渉人にとって毒にも薬にもならないのは、不明確なあいまいな立場・ポジションの維持。そんなことでは、自分の力になってくれる味方は増えない。

キレイごとを言う人は、普段は、世界平和だ、人類皆兄弟だ、人間主義だ、と言いながら、自分の価値観と合わない者を徹底して排除するんだよね。ところがトランプ氏は、全てを呑み込んでいく。西側諸国から批判される人物であればあるほど、個人的関係を築いていく。西側諸国から批判されている国家指導者が、そんな中でも手を差し伸べてくれるトランプ氏に対して感謝の念を強くするのは当然だ。そしてそのような人物は、たいてい個人の力で国家運営を取り仕切ることのできる非民主国家の指導者だ。この指導者だけを押さえておけば、その国との懸案事項は何とか解決できるというキーマン。逆に成熟した民主国家の指導者の場合には、その指導者だけを押さえても懸案事項を解決できないことが多い。ゆえに、トランプ氏は成熟した民主国家の指導者との個人的関係をそれほど重視していないのだろう。

そして、このような個人的関係を築いていく上で、トランプ氏は相手を褒めちぎる。聞いている方が恥ずかしいくらいにね。こんなアメリカ大統領はかつて存在したことがない。だいたい政治家というのは自分が一番だし、国家の指導者ともなればメンツを重視するから、他国の指導者のことをそんなに褒めちぎらない。ましてや世界最強の国であるアメリカの大統領がそんなことはしない。

ところがトランプ氏は、相手を褒めるわ、褒めるわ。組織を切り盛りすることのしんどさを知っているからこそだろう。命を狙われながら激しい政治闘争を生き抜き、国家運営を担う者同士に芽生えるある種の共感。政治家であったとしても、自ら国家運営を切り盛りするのでもなく、激しい政治闘争をするのでもなく、単なるお飾り的な存在である者には、こんな共感を覚えることはないだろう。ましてや、そんな世界からかけ離れた安全地帯から口だけでキレイごとを言うだけの学者やコメンテーターなどの自称インテリには、絶対に分からないところだろうね。

(略)

このようなトランプ外交を口だけで批判することは簡単だ。それでもどれだけ激しくやり合っても、最後戦争にはならないという指導者間・トップ間の関係を築くことは非常に重要だ。そもそも激しくやり合うようなことをしなければ戦争になる可能性もないので、トランプ外交のような外交をする必要性はない、と批判する自称インテリも多いだろう。そのようなインテリたちは、世界中に横たわっている無数の課題について、何の解決もせずに放置することを厭わない人たちだ。課題を解決しようと思えば、時には激しくやり合う必要が出てくる。単純な話し合いでは解決しない課題というものが現に無数に存在する。自分たちの損得にかかわらない問題であれば、自称インテリたちのおしゃべりのような話し合いで解決できることもあるのだろうが、国益と国益が激しくぶつかる問題になればなるほど、激しいやり合いが必要になってくる。そして激しいやり合いになればなるほど、トップ同士、指導者同士、交渉人同士の、キレイごとを抜きにした個人的関係が必要、重要となってくる。

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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.110(7月10日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【トランプ式交渉術〈2〉】相手を震え上がらせるのは「強者の譲歩」だ!》特集です!

(写真=AFP/時事通信フォト)
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