地場の食材を使って、新しい世界をつくる

総料理長としてホテル全体の料理を統括するようになり、樋口さんには明確な目標ができた。歴代の総料理長から受け継いだ伝統を守ると同時に、自分らしい料理を提案していくことだ。

Essential Item●アラン・デュカス監修のル・クルーゼの鍋とトルション(鍋つかみ)。手帳もクルマも赤を愛用している。

志摩観光ホテルには「昔食べたあの料理を」と、伝統の味を期待して訪れる常連客も多い。新しいメニューを出して「いらない」と言われたことも、1度や2度ではなかった。

それでも新たな挑戦を続けたい、と樋口さんは言う。2016年の伊勢志摩サミットで料理を担当したとき、地場に未知の食材があることを知り、「これで新しい一皿をつくりたい」という思いがあふれた。

「アワビや伊勢海老の伝統的なレシピは守りつつ、地場の食材に光を当て、いかに自分らしい料理を表現していくかを模索したいんです」

そのためにはまだまだ時間が必要だという思いがある一方、「だからこそ」と彼女は語った。

「10年続けてようやく、私の新しいメニューを楽しみにしてくださるお客さまが増えてきました。それを励みにしながら、もっともっと三重の豊かな食材の魅力を表現していきたい。ホテルの味を受け継ぐ人材を育てつつ、常に新しい挑戦をしていく。それが私の役割だと思っています」

▼樋口さんの1日のスケジュール
(7:00)起床 家事(掃除・夕食の仕込みなど)
(10:00)ミーティング
(11:00)食材のチェック、キッチンミーティング
(12:00)ランチの調理、会議・打ち合わせ、仕込み作業など
(14:00)発注、メニュー作成、仕込み作業など
(15:30~16:00)昼食
(16:30)1度自宅に戻り、買い物や夕食の準備
(17:30~)オーダーに対応
(22:00)新メニューの試作、メールチェックほか
(23:30)帰宅、食事・入浴・朝食の準備、くつろぎ
(2:00)就寝

撮影=伊藤菜々子