一部上場のホワイト企業でも入社してみると、仕事のやり方は旧態依然としていることがある。組織開発のコンサルを行う勅使川原真衣さんは「指示に疑問があっても、使えないやつと思われたくなくて質問できない企業風土では、新人は萎縮してしまう。そこで失敗したとしても、その人に能力がないということでは必ずしもない」という――。

※本稿は、勅使川原真衣『職場で傷つく リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)の一部を再編集したものです。

ポテトチップスとビール
写真=iStock.com/Lecic
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「能力」とは絶対的なものではなく、刻々と変化する「状態」

人は環境次第でいかようにも変わります。元気そうに見えた人が、ある日突然進行がんが見つかり、弱ってしまうことだってそりゃあ、あるのです(私のことです)。

人の見え方(評価)でいえば、もっと可変的です。株相場と同じくらい、平気で変動します。

その人そのものが変わらなくても、誰と何をどのようにやっているか? という場が変われば、「使える」と言われたものも翌日には「あいつ使えねえ」に変わりかねない。逆もまたしかりです。

ある人の見え方は、その人が固定的に保持しているかの「能力」ではなく、あくまで互いに影響し合って揺らぎの中を進行する「状態」なのです。

このことについて初作で著した際に「自分のことかと思った」と方々より反響をいただいた、敏腕営業部長Mさんの新卒時代の黒歴史を題材に、考察してみましょう。

今は敏腕な営業部長が新卒で入った会社でやらかしたこと

Mさんが新卒で入った旅行会社は、新卒学生が挙げる人気企業ランキングの常に上位。「健康経営」「パーパス経営」だなんだといった組織論でも先端を行く企業の1つと認識されている「優良企業」です。

しかし、つぶさに見たときの現場は、「自分で考えろ」「調べてから聞け」が飛び交う部門や部署もしかと存在していたようです。これはつまり、組織目標は大きく美しく掲げられているものの、ちょっとしたことを気軽に確認できない、窮屈な組織風土が醸成されているということでもあります。

新卒入社の営業社員のMさんは、ある最重要顧客のプライベート旅行の手配の指示の中に、「チップとデールをよろしく」と出てきたのですが、初耳で、なんのことかわからないでいました。

わからないなら尋ねればいいだけの話のように思いますが、そう単純なことではないのが世の常。

「そんなことも知らないのか!」

これまで散々言われ続けたことで、次のような意思決定をするのです。「チップとデール」と何回も脳内で唱えるうちに、

「チップとデール……?」→「チップスと、デール?」→「チップスとビール……」→「チップスとビールのことか!」

勝手にシナプスがつながり、わかった気になってしまったのです。

そして迎えたリクエストの当日。そのクライアントのお嬢さんのお誕生日祝いの席でしたが、そこに大好きな「チップとデール(ディズニーキャラクターであるシマリスのコンビ)」のデコレーションが施されることは……ありませんでした。テーブルにデーンと、ビールジョッキとフライドポテトが用意されていました。期待値が高かっただけに、事態は修羅場に。