「チップとデール」の悲劇で始末書を書き、会社を辞める
電話で叱責されたうえ、自社内でも即刻始末書を書かされ、その後も「そういえば前からMは使えなかった!」などと袋叩きに遭い、退職することを決意したのでした。
しかしこれまた興味深いことに、Mさんはその後転職し、今となってはその転職先で最年少営業部長として比類なき「才能」! をみせている、というエピソードでした。
さて、この話。初作では、「能力」評価なるものが乱高下する一例としてサラっと描きましたが、これは実は掘り下げ甲斐のある事例なんです。
特に、登場人物各人がかけているであろう「めがね」をかけて、状況を眺め直すとおもしろい。
新卒社員Mさん(現、他社の営業部長)には、聞きたいことも聞けない、不自由で不寛容と映った職場。たとえ、先端的、「優良企業」であったとしても、です。
また同時に興味深いのは、その職場の当時の上司たちは、世が世なら「パワハラ」と言われてしまうかもしれない点です。何か聞いたら、
「ねえ、忙しいのわかんない? そんなことに答える暇ないんだよ。自分で考えて」
――この積み重ねで、若手は病んでしまうことが充分に考えられるわけですから。
忙しいプレイングマネージャーに部下の教育はできない
しかし、マイクを今度はその上司たちに向けると……まったく異なる世界線が見えてくるはずです。直接ご本人たちに聞いたわけではありませんが、似通った状況は散見され、そのたびにこれまで相談を受けてきました。それら拙経験を職場のエスノグラフィー(質的調査、参与観察メモ)として振り返るに、十中八九、こう言うことが想像されます。
「自分たちがプレイングマネージャーとして、重い予算(ノルマ)を持たされて、それでいて部下を育てろ? 体が何個あっても足りませんって。
気楽に何度も何度も質問されて、それにいちいち答えていたら、それだけで1日終わります。ちょっと緊張感って言うのかな、なんていうか締め付けは必要なんです。育成というか、人の管理には。
僕らにこれだけの生産性を求められていたら、そりゃあ空気の読めないような、能力の低い人には犠牲になってもらわないとどうしょうもない。
いいですか、知らないことを聞かなかったM本人が諸悪の根源です。『わからないことを聞けない組織風土をつくった』? いやいや(笑)、わたしたちを巻き込まないでほしい。
Mみたいにあれこれ聞いてくるやつ、ほかにはいませんでしたからね。彼は採用ミスだった、と言うべきでしょう。それだって俺らの責任になるんですよ?
『誰だよ、こいつ採用したの?』って言われるんですから。管理職はつらいですよ」