面接で「専業主婦の生活を教えてほしい」と言われた

「リクルートが珍しい会社といわれるのは、トップダウンの命令ではなく、まずは現場の声がすくいあげられて動きだしていくから。『Be a DIVER!』もその1つです」

リクルートホールディングス サステナビリティ推進室 室長 伊藤 綾さん

サステナビリティ推進室・室長の伊藤さんがこのイベントを思い立ったのは、15年11月のこと。「ゼクシィ」編集部から異動して半年あまり、ダイバーシティ推進に取り組むなかで現場社員が女性活躍だけではないダイバーシティも大切にしたいと考えていることがわかり、その声をどうにか形にしたいという気持ちがあった。そんなとき社内で「経営への提言」を募集するコンクールがあることを知り、応募したのが始まりだった。思いがけず審査員から賛同を得てグランプリを受賞。「Be a DIVER!」の実現が決まり、翌年1月に初めてイベントを開催した。

伊藤さんが「Be a DIVER!」に込めた思い。それは自身がリクルートという企業でたえず感じてきたことだという。入社したのは28歳のとき。それまで夫の転勤に付いて社宅で専業主婦をしていた伊藤さんにとって、採用試験の面接が心に刻まれていた。

「専業主婦の私は何のスキルもないし、就職を考えても仕事はなかなか見つかりませんでした。リクルートで面接を受けたときも自分から話せることはなくて。けれど、『あなたはどんな毎日を送っていたのか、ぜひ教えてほしい』と言われ、社宅での体験や日々の暮らしを思いつくまま話しました。すると『それはあなたの価値だから、ハンディと思うことはない』と。そこで私は『個の尊重』ということを体感しました」

「ゼクシィ」編集部で働きだしてからも、パソコンの使い方から覚えるほどで、ブランクを感じて自信をなくすばかり。それでも職場で常に聞かれたのは「あなたはどうしたいのか?」という問いだった。伊藤さんは、“私のように自信のない花嫁さんもいるんじゃないか”と思いつく。そんな女性たちに役立つ美容法など細やかな企画を立てると、どんどんヒットするようになった。

やがて編集長になり、私生活では30代で双子の男の子を授かった。出産の際に生死にかかわる大病を経験したこともあり、生き方も見つめ直す契機になったという伊藤さん。

「育休から復帰すると、『5時に帰る編集長』に徹し(笑)、まさに毎日が『働き方改革』の実践でしたね」

そうした体験が、今はダイバーシティ推進の取り組みに活かされている。その原点にはやはり、リクルートで培われてきた「個の尊重」という経営理念があると顧みる。

「一人一人の価値を信じ、可能性を引き出していく。それは社員だけでなく顧客一人一人と向き合う姿勢であり、事業の根幹なのです」

ダイバーシティを推進することこそが、さらなるビジネスにつながっていく。その仕組みは実はシンプルで変わることなく、なおも成長を促す機動力にもなっているようだ。

撮影=伊藤菜々子、市来朋久、強田美央