「おまえはどうしたい?」を問われ続ける

LGBTの取り組みは、ダイバーシティの在り方もあらためて提起することになった。リクルートホールディングス執行役員で、メディア&ソリューションSBUを統括する野口孝広さんは、働き方改革やダイバーシティも担当している。前任の住まいカンパニー時代には、LGBTの講演を主催したことがあった。

リクルートホールディングス 執行役員 メディア&ソリューションSBU統括 野口孝広さん

「たまたま田辺から『こういう人がいるので講演してもらいましょう』と。もとは女性ですが、イケメン親父でカッコいい方なんですよ(笑)。彼の話が興味深く、そこで学んだのは性の差とは多様なものだということ。男女それぞれ、体と心の状態、恋愛対象の違いによって27通りに分かれるのだと。僕の中では衝撃的で、まさにダイバーシティとつながったのです。もともと誰もが持つ可能性をどれだけ引き出せるかというのが、リクルートの経営理念にある『個の尊重』です。事業を通じて社会に貢献するためには、新しい価値を創造し続けなければならない。それを担うのは個人であり、一人一人が持つ可能性にちゃんと向き合うことが大切だと考えました」

リクルートには創業当時から男女の差なく活躍する企業風土があるが、女性管理職の比率は高くはなかったという。06年から着手したダイバーシティ推進の取り組みでは、まず女性が結婚・出産後も活躍できるような環境をつくるため、長時間労働の改善、両立支援などを進めた。

続いて女性管理職向けに育成や研修などの活躍支援策を実施。一方、女性活躍のみならず、LGBT、介護との両立、男性の育児支援などに取り組む。こうしたダイバーシティ推進の実現には「個の尊重」が欠かせず、一人一人の意識を高めるいくつかの仕組みがある、と野口さんはいう。

「社内では月間MVPほか3カ月に1回、年間1回など個人を表彰する賞が多いんです。もちろん本人は嬉しいけれど、周りで見ている人たちが『私もこのやり方でやってみようかな』と思ったり、自分もがんばろうと奮起するかもしれない。個人の成果をシェアすることで、前向きな意欲が広がっていくと思います」

さらに人事評価に使われるツールの1つが「WCMシート(Will・Can・Mustシート)」だ。仕事を通じて実現したいことや中長期的なキャリアイメージ(Will)、そのために自分ができること(Can)、やらなくてはならないこと(Must)を一人一人が考えて記入し、上司との面談で話し合いながら確定するのだ。

「とにかく上司とメンバーとのコミュニケーションを大事にしていて、半期ごとに自分たちの業績や成果の振り返りをします。その中で必ず問われるのは『おまえはどうしたい?』。それに答え続けることで自分の考えが深まり、仕事に対する使命感を抱くようになる。そのなかで当事者意識が生まれていくのです」

そうした当事者意識がまた新たなビジネスの着想に結びついている。

15年7月からスタートした「iction!プロジェクト」は、「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る」を目指し「はたらく育児」を応援するプロジェクト。リクルートグループ全体で一日5時間以内などの「短時間ジョブ」の創出を進めている。さらにワーキングマザーである推進担当者の声を基に、限られた時間のなかで専門性を活かせる働き方として、「ZIP WORK」を提案。広報や人事労務など高い専門性を持ちながらも、介護や育児などのためフルタイムで働けない人に向けた取り組みで、現在100社以上で導入されているという。