転職直後に「男の人が恋愛対象」とカミングアウトした副編集長

この取り組みに尽力したのは、リクルート住まいカンパニーで「SUUMO」副編集長を務める田辺貴久さんだ。自身も当事者である田辺さんは07年にリクルートへ中途入社。同世代の女性が多い職場は活気があり、互いの個性を楽しんで働いている空気が心地よかったという。

リクルート住まいカンパニー「SUUMOの注文住宅」編集長、「SUUMO」副編集長、マガジンビジネス推進部 カウンター集客サービス 注文カウンターチーム 田辺貴久さん

「転職して、チームのメンバーにはいち早くカミングアウトしました。飲み会の場で恋愛話が出たりするので、僕も自然に『男の人が恋愛対象なんです』と(笑)。皆もいろいろ関心をもって聞いてくれて、快く受け入れられたような安心感がありました」

さらに転機となったのは14年、社内の新規事業コンテストに「LGBTダイバーシティ・マネジメントへの取り組み」を起案したのだ。

きっかけは同僚の女性社員からの声掛け。当事者として加わることに抵抗もあったが、社長はじめ上層部の評価は高く、入賞を果たす。組織長向けの研修をすることになり、研修を受けたマネージャーから部下へ取り組みの波が一気に広がった。

「会社の課題として取り組むときのスピードと展開の速さには驚きました。僕が主体的に進めるというより、サービスの担当者や人事制度を担当する人がそれぞれに動いてくれた。LGBTの話も人ごとと捉えるのではなく、これはやらなきゃいけないとスイッチが入ると、誰もが自分ごととして動いてくれるのです」

田辺さんは同性カップルが家探しの際に理由なく断られたり、嫌な思いをするのを目の当たりにしていたので、住まいカンパニーでは「LGBT」向けのサービスを展開した。一方、人事面では同性パートナーも配偶者としての登録が可能になり、自身の生活にも変化があった。

「実際に僕もパートナーを登録し、職場の上司や周りの人に伝えました。すると、ある時、グループミーティングで報告してくれて、お祝いのプレゼントをいただいたのです。僕らがもらった『パートナーシップ登録書』をフェイスブックにあげると、社内の人からも『おめでとう!』『シェアしてくれて、ありがとう』と。2人の関係を受け入れてくれたことが嬉しくて、家に飾っていますよ」

フェイスブックの写真には、皆に祝福されて照れる笑顔がある。パートナー登録したことで5日間の休暇もとれ、2人で海外旅行へ行くことができたのだそう。さらに後に続く同僚や後輩が自分の個性を発揮して働ける環境づくりを提案していきたい、と考える田辺さん。

「LGBTのみならず、いろんなバックグラウンドを持つ人がいるということは、組織にとっても多様な引き出しがあるということ。その引き出しを開けて、中身をシェアしていくことが強みになると思うのです」