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事前に見積もりを出さない弁護士はアウト

労働事件解決のポイントは、「自分が話すより、相手の話を聞く」ことだ。まともな弁護士なら、自分の見解を述べるまえに、まずは社長の見解を聞くはずだ。話を聞いてもらえるとわかったら、相手が安心し譲歩してくれるようになる。そのことを知っているからだ。攻めるだけの交渉では、まとまるものもまとまらない。

「うちの弁護士さんは弱腰だ」という愚痴を聞くことがあるが、まくし立てるように話す弁護士が優れているとは限らない。相手の話をよく聞いて、ポイントを絞ってから主張するほうが話がまとまりやすいからだ。もちろん、ひたすら聞くだけの弁護士では困る。

かつて「弁護士に依頼して困ったことはありますか」とアンケートしたことがある。そのとき多かった回答は、「費用が高すぎる」というものだ。これまでの経験からして、社長の多くは、弁護士費用の額そのものに不満があるわけではない。「いくら費用がかかるのかわからなかったこと」に不満を持っている。あとになって高額な請求書を見せられて、うんざりするのだ。費用については、事前に見積りをだしてもらうべきだ。見積りを出さない弁護士には依頼するべきではない。問題の解決方法も、コストとの兼ね合いで決まるものだ。

プライドが高すぎる弁護士はいかがなものか

弁護士として最悪なのは、わからないことを曖昧にしたまま事件を扱うことだ。たとえば、2年分の残業代を請求されて100万円を支払う内容で話がまとまったとしよう。このとき安易に「残業代100万円を支払う」とすると、さかのぼって源泉徴収しないといけなくなる。あるいは、失業保険で有利だからと会社都合の退職にしてしまったら、助成金に影響することもある。労働事件に関していえば、目の前の問題のみならず、税務、社会保険あるいは助成金といった周辺の知識が不可欠だ。表向き労働事件が解決しても、思わぬ落とし穴が待っている。弁護士といえども、すべての制度に精通しているわけではないから、その点も踏まえておきたい。

私もいまだに「わからないこと」と遭遇する。経験から「わかっていない部分」を特定することはできるから、調べるなり他の専門家に聞くなりして、対応している。また、社会保険労務士あるいは税理士とチームを組んで仕事を進めている。社長を含めたチーム全員で情報を共有しながら話を進めるやり方が、判断がスムーズでミスも少ないからだ。他の専門家の力を借りようとしないプライドが高すぎる弁護士は、いかがなものか。

私は、自分が完璧でないと知っている。もし、「自分は何でもできる」と感じたら、その日に弁護士を辞めると決めている。自分の弱さを忘れた者は、すべてを失ったのも同然だから。

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