グローバルの人材獲得は、日本的な働き方では無理
味の素は現在130カ国・地域とビジネスをし、社員約3万3000人のうち、日本にいるのは1万人だ。働き方からグローバル企業にならなければ、海外の人材は働きにきてくれない。西井社長は、海外の人材が日本で働いてくれるような環境を整えるのがリーダーの役割だと思っている。
「3つやらなきゃいけないことがあります。1つはリーダーシップ。もう1つはインフラを整えること。最後は一番時間がかかりますが、一人一人のマインドセットを変えていくこと」
インフラは大方整えている。働き方改革でもたらされた利益はすべて人材に投資すると社員と約束をしているからだ。給与体系や評価基準も変えた。改革と連動して人事制度を改訂し、管理職は完全職務グレード制に移行しているので、いわゆる「年功」に甘えることができない仕組みだ。機会あるごとに繰り返し、この改革の意味を訴え、取り組みを紹介している。
「マインドセットを変えてもらうときに一番引っかかるのはなんだろうと考えたら、最初に言ったように『特定の人だけ早く帰る』ということだったんです。本当はみんなそうしたいと思ってるはず。だったら、みんな早く帰れるようにすると、もっと知恵が出るんじゃないか。特定の人に偏ると、結局協力が得られないから、制度なんかいくら作ったってダメなんですよね」
ESG投資家には好意的に受け止められている。これは海外の資本を呼び込むうえでの強みだ。エレベーターで、会社の行き帰りにすれ違う女性社員はにこやかだという。
「『ちゃんとやってくれてるよね』と認められているのかな。20年に、社内の80%以上の人から、働きがいがあるこの会社で働き続けたいという回答が出るようにPDCAをまわそうと思ってるんです」
社長「夜の宴席の前にジムに行けます」
最後に社長自身の働き方について聞いてみた。
「夜の宴席が多いのですが、宴席の前にジムに行けます。4時半に終わって、1時間ぐらいプールで泳いで、それから宴席です」
保守的な食品業界において、味の素は一歩先をいく働き方改革に着手している。マインドセットの変え方はどこも悩みの種だが、「特定の人だけでなくみんなが早く帰る」という大胆な一歩がその鍵であるといえるだろう。
編集=相馬留美 撮影=岡村隆広、市来朋久