エッセイの最後の方で体調を崩し、入院する場面も描かれていたので、大家さんの現在が知りたくて、12月18日に新潮社が開いた矢部さんのトークイベントに参加した。終了後、矢部さんによるサインの列に並び、こっそり大家さんの体調を聞いてみた。

「お元気です。『大家さん、生きてる』って帯に書いとけ、心配になるって、先輩にも言われました」と、ある芸人さんの名前をあげて答えてくれた。

なので安心して、「大家さんから読み解く、健康長寿の秘密」について書いていく。

困ったことがあれば、自然と励ましてしまう

まずは「優しさ」だ。矢部さんと大家さんが親しくなり始めた最初の頃に、こんなことがあった。矢部さんが出たバラエティー番組を大家さんが見る。ガリガリに痩せた矢部さんが、プロレスラーに投げられるという企画だ。大家さんはびっくりする。「矢部さんは何も悪いことをしていないのに、なんであんな仕打ちにあうの」と尋ねる。

そして、「元気出して、お米よ」と袋に入ったお米を矢部さんにくれる。「大家さん あれが 僕の仕事です」と矢部さんの独白が入り、ペーソスを感じさせるのだが、私はもうこの時点で、「あ、大家さん、これは長生きポイントです」とつぶやいていた。

知っている人を、優しい目で見ているのだ。困ったことがあれば、自然と励ましてしまうのだ。何かをプレゼントするという行為はおまけ。心配の形。

矢部さんは大家さんからいろいろな品をもらう。スーツケース、すいか、お皿……。疎開していた長野からと「おやき」ももらう。

長野時代は食べ物がなく、東京から送ってきたものも親戚が食べてしまった。でもお友達はみんなやさしかった、と思い出を語る。仲良くなりたくて、長野の言葉を覚えようとした。「私」は「おら」、「です」は「ずら」。でも「にあわんだよ、そのままでいいずら」と言ってくれたお友達がいてうれしかったわ、と大家さん。その人とは今も仲良しで、おやきも送ってくれたという。

優しい人が優しい人を語る。とても温かな場面。「そのままでいいずら」のお友達と大家さんは今も仲良しで、その日も電話で1時間も話したそうだ。ほら、お友達も健康長寿でしょ、と私は思う。

大家さんの辞書に「断捨離」という言葉は多分ない

優しさとはなんだろう。心のゆとり、キャパシティー。そんな感じだろうか。それが大きいから自分のことばかり考えずに済む。そういう人は心身共に健康で、その蓄えが大きいから長寿。そんなことだろうか。

長寿で健康な方に会うと、優しさと同時に感じたのが、ある種の厳しさだ。自分にも、他人にも、計算でない優しさと厳しさがあった。

例えば大家さんは、矢部さんが驚くほど、部屋をきれいにしている。身の回りのモノを減らそうとしているし、大切なもののポラロイド写真を矢部さんに撮ってもらい、譲る人の名前を書き入れいている。「断捨離」という言葉は、多分、大家さんの辞書にはないだろう。何やらはやっているらしい、そういうものとは関係ない 。自然と己を律している。