メリハリのある働き方を改革の主軸に

このように社員一人一人の背景や価値観、経歴の多様化のなかでいかに優秀な人材を獲得し、彼らが活躍できる環境をつくり上げていくか。同社ではさまざまな施策や制度を試行錯誤してきたが、今後は一層その環境づくりを加速していかねばならない――それが人事総務部長となった小野さんの問題意識だった。

そこで彼は15年から1年間、総合商社における働き方の改革とはどのようなものであるべきかを、安永社長と繰り返し話し合ったという。

「社長とよく話したのは、総合商社の『働き方』を考えるとき、重要なのはワーク・ライフ・バランスだけではないということ。世界中でさまざまなプロジェクトを行う商社では、『やるときはやる、休むときは休む』というメリハリが大切なんです。一日の仕事の流れだけを見ても、海外とのビジネスを行う部署では、時差によって働く時間帯が夜になるのも当たり前です。いわばワーク・ライフ・コントラストがはっきりとした働き方。一人一人がワーク・ライフ・マネジメントを徹底して考える必要があると思い、社長からあえて『ダイバーシティ経営』のメッセージを出してもらったのです」

三井物産の過去20年の採用実績を見ると、小野さんの語る「職場の変化」がどのようなものだったかがよくわかる。同社が女性担当職の採用を開始したのは1992年。以後、「商社不要論」が取りざたされた2000年代初頭の就職氷河期を経て、女性担当職の割合は年を追うごとに増えている。16年には新卒採用の25%に達し、外国籍社員の採用も増加したため、かつては100%だった本社における担当職採用者の「新卒日本国籍男性」の比率は、いまでは50~60%。この傾向は今後も続いていくだろう。

Karugamo Works●2014年より始まった社内横断的なイノベーション・ラボの名称。第1期の取り組みでは、“植物卵”と呼ばれる植物性タンパク質の食品を扱うベンチャー企業や、超小型衛星を開発するベンチャー企業への出資が行われ、同社の新分野を切り開いた。

そんななか、同社では05年に「ダイバーシティ推進室」をつくり、多様化する組織への対応を進めてきた。同部署は何度か名前を変え、「働き方革新元年」と安永社長が宣言した2016年からは「ダイバーシティ経営推進室」と装いを新たにして社内の制度・意識両面の改革を担っている。

現在、ダイバーシティ経営推進室の室長を務めるのは、3児の母で女性担当職の採用2期生になる93年入社の白江喜実子さんだ。彼女を室長に選んだ理由を、小野さんはこのように話す。

「彼女は働きながらの出産・育児、国内外でのビジネス、と三井物産を舞台に多様な経験をしてきた人。ダイバーシティ経営を進めていこうとするとき、彼女の言葉には説得力があると思ったからです」

同社は2016年、「ダイバーシティの推進」をテーマに3つの新しい制度を導入した。

1つ目は「時間単位の年次有給休暇制度」。これは有給休暇のうち法定制限の年間5日間分について、1時間単位で休暇を取得できるようにするものである。

2つ目は「モバイルワーク制度」で、PCを持ち出してオフィス以外での業務を正式に認めた。また夏場に、「個人単位の時差出勤制度」を試験導入、1400人の社員が参加した。そのアンケートとインタビューの結果を踏まえ、今後の正式導入を検討しているという。