イクボスが称えられる雰囲気を社内につくる
すでに触れたとおり同社は08年から女性の総合職を本格採用している。その背景を専務執行役員(人事部長)の辻野直史さんがこう説明する。
「この業界は長らく男性中心の世界でした。しかし女性活躍は時代の要請ですし、当社の事業が環境やエネルギーなどの分野に広がり、さまざまな人材を取り込んでいく必要があります」
08年は新卒220人中24人、その後は毎年30~40人程度を採用し続け、16年は252人中61人、4人に1人が女性である。ただし、技術職だけで比べると2割に満たない。
「今、女性技術者を5年間で倍増させる目標で採用活動しています」
目標を達成するにはまだ努力を要するだろうが、それでも現場に出る女性の数が増えていることは事実えていることは事実だ。それによって「現場がソフトになる」効果が表れている。
「建設現場は外が囲われて、中で何をやっているかうかがい知れないところがあります。出入りしている作業員は男性が中心ですが、女性が仕事をしていれば、近所の人も『中でどんな工事をしているの?』と気軽に尋ねられるでしょう」
総合職の本格採用で入ってきた女性たちはちょうどライフイベントに入り始めているので、両立支援も大きな課題である。
「育休期間を長くするだけでは満足してもらえません。子育てしながら働きたいという気持ちにどう応えられるかが大事です。現在、女性の部長職は研究所に2人、設計に1人、海外営業に1人いますが、メインストリームである土木と建築でも女性が早く上がってきてほしいですね」
辻野さんの思いを受け止め、女性が活躍できる環境整備を進めるのが、人事部ダイバーシティ推進室室長の西岡真帆さんだ。妊娠・出産した女性は2、3年で職場を替えるジョブローテーションの原則から外したり、配偶者と一緒にいられるように現場を考えたりと、個別対応に力を入れる。
ただし「一番大事なのは上司の意識改革」と言う。どんなに両立支援の制度を整えても、上司が理解を示し配慮しなければ、女性には働きにくい職場になってしまうからだ。
そこで、15年、16年とイクボスアワードを開催した。初年は「女性の育児、女性の育成に力を入れている」上司を、2年目は「男女関係なく部下のキャリアとプライベートを支援する」上司を推薦してもらい、その中から秀でたイクボスを選び、社長からトロフィーを渡して称えたのだ。
「イクボスが褒められるという空気感をつくるのが大切です。表彰された中に、現場で働く男性部下に育休を取らせた上司がいました。彼のコメントが素晴らしかった。『私も上司から応援してもらいました。イクボスがイクボスをつくるんです』と」
アワードが、隠れていたイクボスの存在に光を当てる。