育休で仕事を離れても焦らず少しずつ研究を

上野さんが「プレッシャー」と言う“女性初”を常に背負ってきた女性が技術研究所にいる。安全安心技術センター所長の金子美香さんだ。初めての女性研究者、グループ長、センター所長(部長クラス)への就任も女性初がついて回る。

「女性初は努めて意識しないようにしてきました。今のポジションで誠実に仕事することだけを考えてきました。今後もそうありたい」

技術研究所 安全安心技術センター所長 金子美香さん

入社は男女雇用機会均等法が施行される前の1984年。大学では、地震の揺れによる建物の安全性について学び、入社後も同様のテーマを一貫して研究してきた。建物の構造の耐震性に加え、天井や間仕切りなど非構造部材の安全評価、安全対策まで手を広げて研究したのが後に金子さんの強みとなる。

入社時は嘱託だった。研究者同士は比較的フラットな関係で男女の区別なく働けたが、「正社員のような寮がなかったので、自分でアパートを借りなければいけませんでした」と多少の不便は感じた。

入社から3年目に均等法が施行され、金子さんは総合職として正社員に採用された。09年に次世代構造技術センター次世代構造グループのグループ長となり、4人の部下を持つ。年上の男性部下もいたが、「研究者はある程度独立しているので緩やかなマネジメントです。女性の上司にはみなさん優しくしてくれたので苦労はありませんでした」。

そして12年にセンター所長に就任し、5つのグループを統括することに。11年の東日本大震災の影響で、金子さんが研究してきた非構造部材の安全性が注目されるようになっていた。ただしセンター所長になってからはマネジメントの仕事が中心。

「研究開発の大きな方向性を示すとともに、部下が研究開発を進める際のマネジメントが主な業務です。部門間調整に割く時間も増えました」

女性の総合職を本格採用するようになってからは毎年1、2人ずつ女性が研究所に入ってくるようになり、金子さんの下にも何人か30歳前後の女性がいる。子どもが生まれたときの女性研究者の悩みは育休でいったんキャリアが途切れることだが、金子さんは心配はないと言う。

「会社人生は長いのだから焦らず少しずつ研究を進めてほしい。私たち周りの人間も長い目で育てていくつもりです」