どんな反対があっても信念を貫き通す

研究所時代は22年間続き、その後に大きい異動が待っていた。2004年のTX準備室室長就任だ。キャリアの中で一番の修羅場が訪れようとしていた。

TXは豊洲ネクスト・プロジェクトのこと。1年半後に本社や関連会社の従業員4000人が6週間かけて東京・豊洲の新ビルに引っ越す大移転計画。業務は一日も止められない。しかも、単なる引っ越しではなく業務改革を命じられた。移転費用をはじくとビックリする額になった。

「このくらいかかりますと担当の取締役に持っていくと、『半値以下に!』と怒られました(笑)」

(上)イギリスの国際会議にてドイツの研究者と昼食(中)部長昇進/TX準備室室長(下)執行役員昇進/グループ業務統括室長

お金以上に難しかったのが各部、各人の調整だ。それまで部ごとにオフィスが分かれていたが、今度はオープンスペースに変わる。そのため、広報室の隣には営業部が入り、情報が筒抜けになるので困るという苦情が入る。

管理職からは、今まで窓を背にしていた部長席を廊下側に移す計画に抵抗を示された。部下が廊下に出るときに顔を合わせることでコミュニケーションが取れる意図があったが、「みんな、偉くなって窓側に座るのを待ち焦がれていましたから、その楽しみを奪うプランだったんです」。

文書削減でも抵抗が激しかった。引っ越し前の1人当たりの資料を積み上げると、A4ファイルで12mもあったのを2mに減らすことを徹底。ほかに、「机が小さくなるのは嫌だ」「3階じゃ嫌だ」など、さまざまな利害との闘いが続いた。しかし水本さんは、コミュニケーションを促進し、機能的に働けるオフィスはどうあるべきかという原則を貫いた。

「自分がやっていることは正しいんだと思い込むようにしてました。そのうち、周りも『まあ、いいか』と言いはじめて(笑)」

流されず業務改革を成し遂げた水本さんだが、あとから総務部長にチクリと言われた。「どれだけ裏で支えたか。クレームは全部、こちらで抑えたんだぞ」と。