行内でも有名な大失敗
有馬充美さんは、2014年にみずほ銀行初の女性執行役員になったとき、頭取から「女性だから選んだのではありませんよ」と言われた。アベノミクスで女性活躍が叫ばれるが、実力も年齢もその域に入ってきたということだ。
入行したのは男女雇用機会均等法が施行された1986年4月。
「みずほ銀行になる前の第一勧業銀行が女性を若干名採用するといううわさを聞き、東京の人事部に直接電話をかけました」
当時、有馬さんがいた関西では、男性しか採用していなかった。人事から「こちらに出て来る機会があるなら、お会いして話しましょう」と返事をもらう。赴くと、話をしたい人に面会させてもらえることに。調査部の人やディーラーなど5、6人から話を聞き、「15時に閉まる銀行のイメージしかありませんでした」という有馬さんの興味を引き付けた。
「入行した年の8月頃、会社から『均等法もできたので一般職と総合職を設けましたが、どちらを希望しますか』と聞かれ、大学まで共学で学んできたこともありましたのでとりあえず、『総合職に』とお答えしたんです」
男性と同じなら最初は支店に配属されるはずだが、実際は本部の国際金融部だった。デリバティブなど法人向けの新商品を開発する部署。研修が多かったそのころに、今も話題に上るような失敗がある。
研修には事前課題があり、上司が見てハンコを押し、翌週月曜日から研修がはじまるスケジュール。
「あるとき、仕事が忙しくて平日は課題に手をつけられないことがありました。週末に片づけようと思いましたが、ハンコは金曜日までにもらわないといけません。お客さまに出すものでもないからと思って、白紙のまま持っていって、上司に『ハンコだけ先にください』とお願いしたんです」
穏やかな上司が激しく叱った。
「きみはハンコを押す意味がわかっているんですか。全責任を引き受けるということですよ」と。「ハンコを押すということはそれだけ大切なこと。恐らく支店経験があれば、支店長にハンコを押してもらうことが、どれだけ重いことなのかが肌身で感じられていたはずなんです」
今でも当時を知る人が集まるとその話になるというから、銀行員にとって相当衝撃的なことだったのだろう。
入社6年目にハーバード・ビジネス・スクールに留学してMBAを取得。帰国すると希望していた営業部に異動するが、そこでもつまずきが……。