そのころが、キャリアの中でも一番の苦労があった時期だという。

「中小企業に対する迅速な融資を目的に、審査に必要な財務データの項目を計量化して融資判断をする商品を扱っていましたが、対象企業の不振が続き、当初設定していた想定デフォルト率を超えてしまいました」

異動のときにもらった名前入りの手帳と万年筆。手帳はメモの用途につかう。万年筆は、お礼状を書くときなどに重宝。

調べてみると、優良な借入先はもっと低利で借りることができ、事情のある企業が借りていた。もっと悪いのは営業の姿勢だった。本来なら銀行員は貸出先に足しげく通って関係を深めていくのに、保証があることに安住し、「半年に1回、決算書をもらうための訪問しかしていない」「行ってみたら、もぬけの殻」ということも。

「結局、その商品は取り扱いをやめました。現場は、財務データだけでなく、その背後も理解しないとダメだと痛感しました。その後、手前みそですけれど、高齢者や障がい者の働く環境を整えるお金を融資する商品をつくったところ、その意義等に共感いただき、特に低利ではありませんでしたが、さまざまな企業にご利用いただいています」

融資は友達づくりに似ている。単にお金目当てで集まってくる友達より、志に引かれて集まる友達のほうが好ましい。今はそんな信念を持って仕事に当たる。

■Q&A

 ■好きなことば 
上善は水の若(ごと)し(老子)

 ■趣味 
カラオケ、ゴルフ(48歳で始めた)

 ■ストレス発散 
お風呂で大声で歌う 、家事、料理

 ■愛読書 
『経営学』小倉昌男著

撮影=澁谷高晴