なぜ急に「鎮霊社参拝」を思いついたのか

この鎮霊社の創建は戦後の1965年のことで、靖国神社の側の説明では、「戦争や事変で亡くなられ、靖国神社に合祀されない国内、及び諸外国の人々を慰霊するために」建てられたものだとされている。

「鎮霊社」の写真。靖国神社のウェブサイトより引用。

靖国神社に祀られているのは、軍人や軍属が中心で、沖縄戦や空襲で亡くなった一般の国民は祀られていない。また、明治維新前後に賊軍とされた人間のなかにも、未だ祀られていない者がある。まして、海外の戦争犠牲者ともなれば、まったく祀られていない。鎮霊社は、そうした枠を超え、あらゆる戦争で亡くなった人々の霊を慰めるために建てられたものだというのである。

安倍首相は、靖国神社に参拝した際に談話を発表している。それは、「本日、靖国神社に参拝し、国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対して、哀悼の誠を捧げるとともに、尊崇の念を表し、御霊安らかなれとご冥福をお祈りしました。また、戦争で亡くなられ、靖国神社に合祀されない国内、及び諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも、参拝いたしました」というもので、鎮霊社に参拝したことにもふれているのだった。

安倍首相は、自分が靖国神社に参拝すれば、必ずや周辺諸国からの反発を受けることになると予想していたはずだ。そのため、参拝は過去の日本の戦闘行為を正当化するものではなく、むしろ世界平和を願ってのものであることを強調するために、鎮霊社へ参拝し、そのことをここで強調しているわけである。

その後、2014年4月に、つまりは靖国神社参拝から4カ月後に、当時のオバマ大統領が来日した折の共同記者会見でも、鎮霊社に参拝したことに言及し、「二度と人々が戦火で苦しむことのない世界をつくっていくとの決意の下に、不戦の誓いをした」ことを強調していた。安倍首相は、鎮霊社への参拝をかなり重視していたのである。

私はそのことに興味を持ったが、メディアはほとんど関心を示さなかった。安倍首相の鎮霊社についての言及が共同記者会見の最後だったこともあり、オバマ大統領も、そのことについては何も述べなかった。

その点では、鎮霊社への参拝をことさら重視した安倍首相の行動は、メディアにもアメリカ側にも理解されず、空回りに終わってしまったように思えるが、なぜ急に、首相が鎮霊社参拝を思いついたのか、またそれにかなりのこだわりを見せたのかは謎だった。

その謎が、最初に述べた神道関係のシンポジウムで解けたのだ。

そのパネラーは、自分が昭恵夫人に対して、鎮霊社への参拝をアドバイスし、その結果、首相が参拝することになったと説明したのである。その人物は、昭恵夫人と一緒に写っている写真を見せながら、そのことを説明したように記憶している。