「大統領選の票読み」はなぜ外れたのか?

「またか!」

アメリカ大統領選挙の各州の結果がアメリカのメディアから速報され、ドナルド・トランプ候補の優勢、さらに当選確実との報を聞いたとき、多くの人がそう思ったのではないだろうか。

「変だ、怪しい」

そう感じているのではないか。わずか数カ月前、世界を驚かせ落胆させたEU離脱をめぐるイギリスの国民投票(6月23日)と酷似する異常事態が、また起きたのだ。投票前日の、世論調査などによるとされるメディアの予想は「正反対」だった。ふたを開けてみると「驚きの結果」。日本の大メディアにおける選挙取材の大変さ、真剣さ、また予測を外した時の恐ろしいまでの「内外の非難」を知る筆者にとっては、信じられない事態といってよい。

仮に日本で、今回、世界が注視したような大事な選挙が行われ、前の日までの取材でまったく逆の結果が出ていたのに、「選挙当日の票読み」は全然違っていたということが起きたらどんなことになるのか(ちなみにNHKでは投票日にも記者が、努力して取材を続けているが、それは「出口調査」といって、投票を終えた有権者に直接聞いて集計し、正式な発表が出る前にそれまでの取材結果といちはやく比べ、分析して、当日の選挙速報が限りなく正確になるようにするものだ)。

報道機関で働いてきた私の感覚では、少なくとも今回の結果は「接戦」ではなく、トランプ候補の「圧勝」。直後に、日本においてアメリカの選挙に詳しいといわれている大学の先生などが「勝敗を決した激戦州に足を運んだのは、トランプ候補だけだった」などを述べている記事を読むと、頭の中が「?」だらけになる。

ただ、私が問題にしたいのは、今回の選挙取材のあり方ではない。

この結果はアメリカやイギリスの経済を牽引する、いわゆる「マネー資本主義の世界の人々(ニューヨーク・ウォール街や、ロンドン・シティーで活躍するマネーのプロたち)」にとって果たして「予想外」のことだったのだろうか、という疑問である。

為替や株価などが、乱高下する状況。それは「マネーでマネーを稼ぎ出すプロ」にとって一番喜ばしい状況だ。原油も金も穀物も、上がったり下がったりする「グラフ」を見られるものは、全部「金融商品」だ。プロ中のプロとされるヘッジファンドのオフィスを訪ねると、そこにあるのは、様々なグラフが表示されたコンピューター。上がる前に買い、ピークを打つ寸前に売り抜けて、儲ける。逆に、高値の時「空売り」しておけば、下がった瞬間に買い戻すと、また儲かる。上がっても下がっても儲かるから、要は乱高下が、一番「おいしい」。