クレームがきた葬儀業者は、即二軍落ちさせる

2009年9月「イオンが葬儀ビジネスに参入」というニュースを聞いたとき「新規部門を立ち上げ葬儀サービスを提供するもの」と思った。が、実際は「紹介業」としての参入だという。そもそも、なぜ進出を決めたのか?「イオンのお葬式」を担当する、イオンリテールの広原章隆さんに聞いてみた。

「返礼品、いわゆる香典返しの販売が始まりだったんです」と広原さんは語る。お茶か海苔が普通だが、もっと喜ばれる品が提供できないか考えた。その後、1年半にわたって研究するうち、「葬儀一式」といった形で価格が提示され、各サービスの単価を表示しないなど、独特の慣習に驚いたという。

「小売業として参入すれば社会貢献もできるのではと考えました」

しかし、そんな理想を掲げるならなおさら、なぜ葬儀業そのものを手がけないのだろうか。

「既存業者との競合という形ではなく、タイアップとすることで、会場や人件費などのコストを抑え、よりリーズナブルに提供できる」という答えが返ってきた。

利用方式としては、コールセンターへ電話をかけ、特約店契約を結んでいる全国400社の葬儀社の中から紹介を受ける。イオンが設定した29万8000~148万円までの6つのプランの中から選び、依頼するという形だ。

他の紹介業者との違いは、プランが全国一律で、地域差による価格の開きが出ないようになっていることだ。見積もりの確認や、葬儀立ち会い(オプション)、終了後のアンケートなどで、葬儀内容をチェックするシステムも導入。14項目にわたる基準も設け、「飾り付け」や「納棺の儀」などのハード面で、質の統一を図っている。利用者へのアンケートでクレームが入った業者は、即「二軍落ち」となり、再研修を受けるまでは次の紹介はしないという厳しさである。

「これまで葬儀社間であまり競争がなかった」と語る広原さんは、流通における問題も指摘する。

「たとえば棺。現在は、中国などから輸入されたものがまとめて一つの港に降ろされ、コストの高い国内物流で全国に運ばれる。だから値段が高くなるんですよ」

流通業界では、行ける所まで安価な船便で輸送、国内の移動は極力短くしてコストを抑えるのが定石だという。こういった流通・小売りの常識と、葬儀サービスとの融合が実現できれば、確かに、利用者へのメリットは計り知れないものになる可能性がある。

紹介料を払うと値上げしなくてはいけない業者も

しかし、現時点でのメリットはまだ特別だとは言えない。スタッフの質など「ソフト面」の管理は、各葬儀社に任されている状態だ。また、現在ホームページやパンフレットなどで公表されている情報では、特約葬儀社がどこのどんな業者かわからない。利用する場合は、最低2社以上を比較するなど、原則に基づき、葬儀社の質は利用者側が見定めるつもりでいたほうがよい。

イオンと特約を結ばなかったある葬儀社に理由を尋ねたところ、「紹介料を払うと、値上げしなければならないから」と答えた。もともとの価格設定が安い葬儀社は、支払う紹介料で利益が圧迫されてしまうのだ。ここが紹介業の限界でもある。ちなみに、紹介業の手数料は、一般に「葬儀一式」の10~30%が相場だ。

イオンほどの企業なら、葬儀業界のしくみを再構築することさえ不可能ではないはず。今後の葬儀にかける本気度に注目したい。

(澁谷高晴=撮影)